マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
暑い日が続きます。7~8月は長期のサマーバケーションに入る中でマーケットの流動性が低下することから方向感が失いやすく、日本では夏枯れ相場などと呼びますが、米株は夏場に株価が上がりやすいというアノマリーも存在し、この現象を「サマーラリー」と呼ぶことも。一般的には7月4日の独立記念日から9月第1月曜日のレーバーデー(労働者の日)までの期間を指すのですが、今年の米株は17500ドル~18000ドルの間を行ったり来たりしているだけで、特別に強いという印象もありません。来年2016年はアメリカの大統領選挙を控え、「大統領選挙の前年の株式は高い」というアノマリーや末尾に5の付く年の株価は高いといったアノマリーも存在し、2015年は米株高となるという見方も強かったのですが、今年の株価の上値が重いのは米国の利上げが意識されているからなのでしょう。
利上げは金融引き締めなので、基本的な考え方としては「株安」です。またドル金利上昇につながりますので「ドル高」になりますね。為替市場では2015年内の利上げを見込んでドル高が進行していますが、米株は利上げを織り込んでいる割には下げ渋っているともいえます。市場の予想は9月、もしくは12月のFOMCでの金利引き上げですが、ギリシャや中国のリスクが落ち着いた7月は、一気に米国利上げの時期を巡って米国の経済指標にドルが敏感に反応する地合いへとシフトしてきました。
先週7月31日金曜のNY時間、ドルが急落する局面があったのは米国労働省が発表する「雇用コスト指数」という指標の影響でした。雇用統計は毎月発表されるため、市場参加者の多くが重要視するイベントとして知られていますが、雇用コスト指数というのはあまり意識されていなかったように思います。
これは企業が社員を雇う際に負担するコストを表した指数なのですが、発表されるタイミングが「四半期ごと」であり、3か月に1度であることからついつい忘れてしまいがちだったりしますね。
なぜ今回、この雇用コスト指数でドルが大きく動いたのでしょうか。
この指数は、給与や賃金に加えて福利厚生なども含めた負担額となるため、指数の上昇は労働市場の緩和、つまり、給与等が引き上げられていることの表れとなります。つまりは企業業績が好転、景気上昇を意味することから、この指数が上昇することで金利引き上げに確信が持てるということになるでしょう。
2011年から2015年にかけて雇用コスト指数は0.3%から0.7%の間で推移しており低水準の伸びが続いていたのですが、前回発表された1-3月期は前期比0.7%上昇とその前の四半期の0.5%上昇から比べると上昇基調となっていたため、今回の結果には失望が大きかったものと思われます。今回発表された4-6月期の雇用コスト指数は前期比+0.2%で、統計が始まって以来33年ぶりの小幅な伸びにとどまりました。市場予想は+0.6%。
指数の悪化で一気に早期利上げ期待が後退したことがドル売りにつながりました。ドル円相場は124.38円近辺から123.51円近辺まで一気に80銭ほどの下落となりました。
雇用市場の改善は安定してきており、いつ利上げをしても不思議はない状況です。FRBが気にかけているのは雇用の改善が賃金の伸びをもたらし、インフレ率の上昇につながるところまでの確信が持てるか否かというポイントへ移ってきていると考えられます。雇用コスト指数はブレが大きいと指摘する向きもあり、今回の数字は一時的な凹みである可能性もあるため、今週金曜8月7日に発表される米7月雇用統計では非農業部門雇用者数や失業率よりも平均時給の伸びがより市場参加者の注目を集めるものと考えられます。
とはいえ、ドル円相場もユーロドル相場もすっかりレンジ相場入りしてしまっています。週末の雇用統計でどんな数字が出ようとも、ドル円相場は今年の高値125.85円の高値を超えない限り強気転換とはなりません。この高値を超えるようなポジティブな結果が出てこない限り、この夏はレンジ相場が長期化するのではないかとみています。
※雇用コスト指数=Employment Cost Index news release text
http://stats.bls.gov/news.release/eci.nr0.htm
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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