第171回 高まる9月利上げ観測にも上値が重いドル/円相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第171回 高まる9月利上げ観測にも上値が重いドル/円相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

アメリカの9月の利上げ観測がリアリティを増してきています。9月利上げ観測は7月半ばから織り込まれ始めました。IMMの大口投機玉のポジション推移では7月14日に円売りポジションが96,538枚まで低下した後に増加に転じています。最新の8月4日時点のポジションを見ると129,622枚まで円売り(ドル買い)が増加しており、ヘッジファンドなどは7月に中国リスクでドル/円相場が120円半ばまで売り込まれた後から、ポジションをひっくり返してドル高シナリオに賭けていることがわかります。

ヘッジファンド勢のポジションの変化は9月の利上げへと米FRBが動くだろうというシナリオがあったからでしょう。

(1)7月15、16日のイエレン議長の議会証言では利上げの「早すぎるリスク」から「遅すぎるリスク」に言及。遅すぎるリスクというのは、利上げ時期が早い可能性を示唆するものでした。


(2)7月のFOMC声明文の小さな変化が見られました。声明文に新たに盛り込まれた「SOME」の文言は、労働市場の「さらなる改善」から「さらにいくらかの改善」が見られれば利上げを実施するというわずかな表現の変化ですが、ほんの少しの改善で利上げに踏み切るということで「タカ派的」だという受け止められ方をしたために、ドル高が加速する結果となりました。


(3)7月30日 4-6月期GDP発表のポイント

4-6月期の米国のGDP成長率は2.3%。1-3月期が▲0.2%であったことで、大きな伸びとなりましたが、その1-3月期のGDPは▲0.2%から+0.6%に上方修正されたことで、利上げにさらに自信を深める内容となりました。


(4)アトランタ連銀ロックハート総裁タカ派発言

「向こう数週間に発表される指標がとりわけ弱い内容でない限りは重きを置かない、経済は準備できており、変化を起こす適切なタイミングだという姿勢で会合に臨むつもりだ」と発言したロックハート氏は中立スタンスと見られていたため、氏のタカ派転換発言に、いよいよ利上げが近いという思惑が広がる結果に。


こうした流れの中で、ヘッジファンド勢は米9月利上げに向けてさらにドル高が進むというシナリオに基づいて7月中旬からドルロングを積み上げてきていましたが、先週7日金曜日に発表された7月の雇用統計を受けても、ドル/円相場は「黒田ライン」と呼ばれる125円を突破することができず、ユーロ/ドル相場も雇用統計発表後は乱高下したものの、結局は発表前の水準より上昇して引けています。つまり、一層のドル高進行とはなりませんでした。

結局のところ、ユーロ/ドル相場は昨年5月から10か月にも渡って続いたユーロ売りドル買いトレンドに今年3月に終止符を打ってから5か月もの間レンジ相場となっているだけです。ドル/円相場は今年5月に125.85円の高値を付けてから3か月近くのレンジ相場となっています。

市場は9月の米利上げがこのレンジをドル高方向にブレイクさせると読んで、ドル買いに動きだしましたが、雇用統計の結果を受けても上がりきれないドルの上値の重さを見て、投機筋はさらにリスクを取ってドル買いするよりもこれまで積み重ねてきたドル買いの「利食いに動いた」と思われます。

というのは、利上げを織り込んでダウ工業株30種平均は2011年以来で最長の7日連続安となるなど、天井を付けてしまった可能性も出てきたことから、リスク回避的なムードが広がりつつあることが意識されているように思います。リスク回避相場がやってくる、となると、投機筋が長期的にポジションを積み上げて利益となっていたポジションをキャッシュに変えて手仕舞うということであり、これまで長期的に続いてきたトレンドが逆流するリスクでもあります。(週明け10日月曜は上海株が大きく反発したことを好感し、商品市況や米株が上昇しています。国際商品高は為替市場の相関で見ればドル安。10日は商品高がドル安を演出した可能性も)

米利上げで日米金利差の拡大思惑から「ドル高」になる、というシナリオがマーケットのメインシナリオではありますが、あまりにも主流であるために、マーケットには相当織り込まれてきているのかもしれません。利上げがこれだけ近づいていると見込まれているにもかかわらず、一段のドル高進行とならない場合、米株の下落リスクのほうにマーケットが引きずられて、ドルが売られるリスクもあるのではないでしょうか。知ったらお終い、でドル高終焉となるというシナリオもささやかれ始めています。今週は米株下落が止まって再浮上できるかどうかがポイントとなってくることと思います。


※「黒田ライン」6月10日ドル/円相場124円台半ば水準のタイミングで黒田総裁が「実質実効為替レートでは、ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは普通に考えればありそうにない」と述べたことで、125円近辺が心理的抵抗とされるライン


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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