第126回　交通渋滞緩和のためロードプライシングを導入？ 【北京駐在員事務所から】

北京では、朝夕を中心に中心部での交通渋滞が慢性化しています。夕方の17時から19時くらいが最も酷いように思われます。
大気汚染の原因となっていることに加え、バスやタクシーでの移動の際、所要時間が読めないことで、大変な不効率が生じています。
北京では鉄道（地下鉄）網が貧弱で、地下鉄駅から離れたオフィス等を訪問する機会も多いため、渋滞の影響は東京と比べ遥かに深刻です。

市政府は、これまで自動車の新規登録の制限（ナンバープレートの発行枚数を限定し抽選により交付）や市中心部への乗入れ制限（ナンバープレートの末尾の番号により、月曜日から金曜日のうち1日について乗入れを禁止）など、様々な対策を講じてきました。
昨年11月のAPEC（アジア太平洋経済協力）首脳会議の開催時には、乗入れ制限をさらに強化し、一日おきにナンバープレートの末尾「偶数」あるいは「奇数」により、市中心部の通行が可能な車輌を全体の半数にまで削減しました。各種の施策が奏効し、「APECブルー」と呼ばれる青空が出現したのをニュース等でご覧になられた方も多かったことと思います。
北京では22日（土）から、陸上競技の世界選手権が開催されますが、期間中も昨年と同様の規制強化が行われるとのことです。政府の決定が全てに優先する中国ですが、市民が被る不便さは相当のものがあります。

最近の報道によると、市政府はこれまでの渋滞対策に代え、市中心部に乗り入れる自動車に対する課金を行い、中心部を走行する自動車の数を減少させる方針と伝えられています。
シンガポールなどで実施されているロードプライシングです。

北京市政府の環境保護局の担当者は、ロードプライシングの導入につき、政府内で検討を行っているものの、具体的な計画、スケジュール等は決定していないと述べています。
一方、専門家や自動車関連業界からは、賛否両論の意見が示されています。自動車業界のアナリストは、新規登録の制限（抽選）は不公平であり、ユーザにとってより公平となるロードプライシングを支持すると述べています。
しかしながら、現在のナンバープレートの割当が、電気自動車やハイブリッド車に別枠を設け、これらの車輌の登録を優遇する方法となっていることから、ロードプライシングへの代替により、電気自動車等エコカーの販売に影響が生じるとの懸念の声も聞かれます。
さらに、北京市の副市長は、別の方法として、自動車の取得と登録に駐車スペースの確保を必要条件とする、日本の車庫証明制度と同様の施策を取り入れることを提案しています。
様々な渋滞緩和策が実施され、あるいは検討されていますが、それぞれ一長一短がありますので、複数の施策を組み合わせて実施することが最善なのでしょう。

私は、駅で荷物検査（飛行機の搭乗前のようなX線検査です）が行われる地下鉄が大嫌いで、極力バスを利用するようにしていますが、夕方のラッシュ時など、歩いた方が速い状況にしばしば遭遇します。これもなかなかしんどいものです。
マイカー通勤もさぞ大変と想像するのですが、満員の地下鉄に揺られるよりは、時間がかかっても自分の空間と時間を楽しめるということで、自動車を選ぶ人が多いようです。
根本的な対策としては、やはり地下鉄を中心とした公共交通機関を整備し、そちらに通勤客を誘導することが必要となりそうです。

渋滞による時間の浪費と大気汚染を減少させるためにも、市政府の取組の強化が求められます。

=====================================

コラム執筆：長野雅彦　マネックス証券株式会社　北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員　米国CFA協会認定証券アナリスト