第172回 点在するリスクにしっかり推移するドル円相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第172回 点在するリスクにしっかり推移するドル円相場 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

8月11日、中国人民銀行が事実上の人民元の切り下げに動きました。ドル円相場は人民元切り下げが直接的にはドル高円安要因になった一方で、人民銀行がスピード調整のドル売り介入を行ったことが伝わると一転円高へ。しかしながら結局は1ドル=124円超から125円台前半にかけての狭い値動きにとどまっています。人民元は初日1.9%、二日目1.6%、三日目1.1%と、4.5%程度、人民元安ドル高となったのですが、通貨市場で3日で5%程度の変動が起こることは珍しいことではなく、この程度の変動に収まるのであれば今後の金融市場の及ぼす影響は限定的だと思われます。

人民元が「通貨安競争に参戦した」とみる向きもありますが、中国人民銀行は13日に緊急記者会見を実施、「今回の基準値の引き下げは人民元の取引の自由化に向けた措置」であるとし、ひとまずの「切り下げ終了宣言」を行っています。あくまでも基準値の設定方法をより市場の実勢に合うように変更したもので、実際の相場が実勢の水準と乖離していたために、それを是正するための措置だったということです。ならば、この先緩やかに人民元安が進むことがあっても、先週のような急激な変動を恐れることはないと思われます。


米国利上げに影響はないのか

人民元切り下げが行われた先週12日、FRB執行部の一員であるニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁が、確実に利上げの時期が近づいていると発言。7月のFOMC(連邦公開市場委員会の声明文でも、中国株が急落していたにもかかわらず、中国リスクには全く触れられていませんでした。米国は中国はじめ新興国の動向は意識せず、「粛々と」利上げに取り掛かっていく意向を鮮明にしています。また、この時期に中国が元の切り下げを実施したのも、米国の利上げが近いことの証左であるとみる向きもあり、現在のところ9月もしくは12月の米利上げは実施されるであろうという見方が大きく後退したようには見えません。


天津港の混乱がもたらすリスク

ところが、12日中国の天津市の危険化学物質倉庫で起こった爆発の余波が、今後の懸念材料として大きくのしかかってきそうです。爆発地点は天津の中央部から40km程度離れた地域ですが、天津市は中国第5位の都市であり世界第4位の港でもある港湾都市。爆発により税関がほぼ全壊状態であると伝えられており、再開の目途は立っていません。中国の首都北京は海に面していないため、天津を経由する形で様々な生活物資などが運ばれているのですが、天津の混乱は首都北京の物流にも多大な影響をもたらすと考えられ、上海株下落、輸出の低迷などを当局があらゆる手段を講じてテコ入れしていますが、中国からの資金流出には歯止めがかからない恐れが出てきました。ソロス・ファンドは、アリババや百度の株式を大量売却、中国売りを加速していることがわかっています。


本当のリスクは原油安?!

原油相場は、そもそもの需給が供給過剰であることが背景ですが人民元が切り下げられた影響も下落に拍車をかけたようです。元安で中国からの購買力が低下すると懸念されたコモディティ市場では売りが加速しています。原油相場が落ち着かない中で米国が利上げすれば、ドル高・原油安をさらに加速させるリスクがあり、資源国の通貨危機を誘発するとの懸念も。94年のメキシコ通貨危機と97年のアジア通貨危機時は世界中が金融緩和局面の中、米国が利上げに動いたことで米国への資金流入が加速したことが通貨危機につながった側面があります。資源安から資源国、新興国通貨の下落が加速する中で果たして米国は利上げを強行するでしょうか・・・。原油価格は40ドル大台割れも視野に入ってきました。
それでもドル円相場はしっかりと124~125円台で推移、弱い相場ではありません。ただ、あまりにも「米利上げでドル高」という基本シナリオが市場に蔓延し、点在するリスクに楽観がすぎるような気もします。わからないときは無理にポジションを取らず休むのも戦略の一つでしょう。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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