第58回 「自律反発」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第58回 「自律反発」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。暢気に夏休みを謳歌していたところでしたが、お盆前後から株式市場は大波乱となり、8月後半は実に慌しい夏の終わりとなってしまいました。大波乱の直接の原因は連日の中国通貨の切り下げでした。長年懸念されてきた中国景気の失速がどうものっぴきならない状況となっているのでは、との懸念が世界市場に一気に広がったのです。さらに、天津での大爆発事故が、政府による情報コントロール懸念をさらに助長させ、俄かに中国リスクが台頭する形となりました。お盆明けからは日経平均が実に3,000円近くも急落、値動きも一日で1,000円を越えるような荒っぽい動きとなっています。先週後半にはようやく沈静化してきたように見えますが、先行き不透明感の強い状況に変化はありません。中国リスクは本コラムでも何度となく指摘してきましたが、株式市場の反応は予想を大きく上回るものでした。感覚的には、まだまだ波乱の芽は残っており、楽観が許される状況には至っていないように思えます。

さて、今回はそういった市場の乱高下もあり、タイムリーに「自律反発」をテーマに採り上げたいと思います。自律反発と書くと、ファンダメンタルズというよりもチャート・アプローチのように思われるかもしれませんが、なかなかどうして、かなりファンダメンタルズが反映されたものといえます。こういった相場展開となれば尚更ですが、これが正解、といった投資判断は非常に難しい状況にあります。そういった中、読者の皆様の投資判断の参考になれば幸いです。

自律反発。なんとなく使っていますが、定義としては、「落ちたボールが自らの弾力で跳ね返るように、相場が急速に下落した時に、相場自体の自律性から少し反転すること」とされるのが一般的なようです。「少し」と限定されている通り、自律反発という言葉には本格的な反騰というニュアンスはありません。例に挙げたボールのように、あくまで底に達するまでの大きな下落トレンドの中で生じる短期的な綾戻し(揺り戻し)という位置づけとなります。よく「(相場の下落局面において)自律反発を狙った投資戦略」などという表現がありますが、これは短期的な方策でしかなく、着実に利食って初めて成功したと言えるものなのです(大きな下落トレンドに変わりはない以上、自律反発後は利益を確定させておかなければ、程なく再度下落に転じてしまうため、です)。言い換えると、安易な自律反発狙いの投資判断は、一時は奏効したように見えても、利食いのタイミングを間違えれば非常に危険な手法ということを肝に銘じておくことが大切と考えます。

より重要なのは、それが自律反発なのか、本格的な反発なのか、の見極めでしょう。本格反騰であれば利食いを焦る必要はなく、所謂「買い持ち」方針で問題ないということになります。この見極めにこそファンダメンタルズの見方が必要となってくるのです。例えば、相場下落局面においては、悪材料が十分に織り込まれたのかどうかの判断が一つのポイントになってきます。以前にこのコラムでも取り上げましたが、バリュエーションなどを用いることでそれらを見極める一助とすることが可能です。もちろん、甘い想定を基準としてのバリュエーションでは意味がないですが、相当に厳しい前提を用いても魅力的なバリュエーションと判断できるならば、本格反発を狙っての仕込みは有効かもしれません。逆に、そうでないのならば、どれだけ劇的な相場下落に見えても、やはり自律反発狙いと割り切って臨む必要があるでしょう。

ここもとの乱高下は、個別銘柄というよりも市場全体の動きですので、上記のようなアプローチは難しいように思われるかもしれません。しかし、例えば東証1部の現在の予想PERは約15倍です。仮に、今回のショックがかつてのリーマンショック並みの衝撃(当時、経常利益は全産業ベースで7割程度もの減少となりました)となったとすれば、「本当の」PERは実は50倍程度(=15/(1-0.3))である、という推定が可能です。つまり、リーマン並みのショック再来を前提とすれば、現在の株価はまだ悪材料を十分に織り込んだとは言い難いのです。逆に、2割程度の減益に留まるとすれば、本当のPERは19倍(=15/(1-02))と試算でき、それほど割高感のない水準となってきます。中国発の今回のショックがどこまで実体経済に影響を与えるかはまだ不明ですが、株価は着々と影響分を織り込み始めています。波乱の展開が継続する中、自律反発狙いなのか、本格反発を想定してなのか、こういう局面だからこそ、しっかりと立ち位置を明確にして相場に臨むべきなのかもしれません。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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