マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
上海株の急落に端を発した金融混乱が混迷を極めています。中国当局による株価テコ入れ策もむなしく、上海株の下落には歯止めがかかっていません。いよいよ顕在化してきた中国景気の減速に中国当局は輸出産業の支援を理由に人民元の切り下げを実施しましたが、これが仇となり、中国市場からの外資の資本流出が止まらず、中国は逆に元安を阻止するために元買いドル売り介入を行っています。ドルを売るための資金調達として中国が米国債を売却していることも明らかになってきており、世界の株価が急落するリスクオフ相場となっているにもかかわらず、米国債利回りが低下していません。通常、株式市場が急落するなどの混乱が生じた場合は、世界一の安全資産とされる米国債に資金が逃避するために、米国債が買われ、利回りが急低下します。しかし、今回のリスクオフ相場では米国債利回りは高止まりのまま。中国が保有する巨額の米国債の取り崩しによるものでしょう。米国債利回りが高止まりしているということは、ドル高要因。
また、先週末に発表された米8月の雇用統計は、8月分のNFP非農業部門雇用者数こそ予想を下回ったものの、6月分と7月分の数字が上方修正されていたほか、賃金上昇率もUPしていたことなどから、「年内利上げの可能性が強まった」との見方が強まりつつあるようです。著名投資家のビル・グロス氏も年内利上げに十分な内容だと発言しており、為替市場ではその可能性を織り込むかのように「ドル高」がジワリ進んできています。
とはいえ、ドル円相場は上昇していません。なぜでしょうか?!
現在のリスクオフ相場で起こっているのは「ドル高と円高」です。現在の、と書きましたが、これは昨今の相場の特徴ですね。まず、中国が「元安阻止」という中国独自の都合により、ドルを調達しているということでドル不足に陥っています。また、米国利上げをにらんで、新興国の通貨の下落も進んでいますが、おかげで現地企業のドル建て債務の返済負担が重くなっています。ドル建て債務は約3.3兆ドル(約400兆円)と10年前の3倍超に膨らんでいるとの試算もあり、リスクとして警戒され始めています。つまり決して「米利上げによる日米金利差拡大による前向きなドル高」ではなく、「世界に投資されていた資金が手仕舞われドルに戻される過程で起こされたネガティブなドル高」なのです。「世界に投資されていた資金の逆回転」が起きているわけですから、これまでドル円相場をリスクテイクとして買っていた向きはドル円相場を売るわけです。おまけに、半値にまで下落した原油安の影響で日本の貿易赤字は縮小し、2014年と比べて2015年は12兆円近くもの円売り実需がなくなっています。原油、LNGなどの化石燃料購入代金が著しく安くなったために、これらを購入するためにドルに換えていた実需のドル買い圧力がなくなっているのです。
また、日本株の下落もドル円下落につながります。これまで海外勢は、日本株が上昇すると見込んで年初から8月第1週までに日本株を現物株と先物合計で約3.4兆円買い越していましたが、一転8月第2-4週で計3兆6850億円の売り越しに転じています。ブルームバーグによれば8月28日までの3週間で海外勢は日本株を1.43兆円引き出したこととなり、3週間というスパンで見るとこの金額は2008年のベア・スターンズ倒産時を上回る歴史的記録だそう。海外勢は日本株を買う際にドルを売って円を買いますが、アベノミクス相場ではドル円相場の上昇も伴っているため、そのままでは日本株が上昇しても為替が円安となってしまうとその分は損失となってしまいます。そのため、海外勢は日本株購入のために、円買いをすると同時に、為替市場ではドル買い円売りを作ってヘッジしていました。しかし、彼らが日本株を売る際はこのヘッジも同時に外してしまいます。つまり、日本株売りはドル円下落につながるわけですね。
ということで、年内の米国利上げが近いということが昨今の「ドル高」の本当の理由ではないのだと思います。そのことが引き起こす、更なるリスクを警戒しての「ドル高」であり「円高」が起こっていると考えるべきでしょう。ドル円相場は、短期的に買い戻されて上昇する局面があったとしても、米国利上げという更なるリスクを前に、今年の高値更新は難しく、下値模索の展開が続くと思われます。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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