第176回 FOMC直前、アメリカの利上げはドル高要因なのか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第176回 FOMC直前、アメリカの利上げはドル高要因なのか 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

今週9月16~17日は、いよいよアメリカが利上に踏み切るのか否か、また今回利上げに踏み切らなかったとしても年内に利上げする示唆があるか、という点において今年最大の注目のFOMCといえるでしょう。7月から中国の株式市場の混乱や中国の景気減速への懸念から金融市場が混乱していることから、9月利上げを予想する向きは減少していますが、米国の経済指標だけを見れば、いつ利上げを実施しても不思議はありません。利上げを実施すればアメリカの金利が上昇しますから、ドルが買われでドル高になるというシナリオは教科書的には正しいのですが、実際にアメリカが利上げを決めた時に本当にドル高となるでしょうか。

複数の主要通貨内でのドルの価値を、貿易規模などを加味して計算し総合的なドルの価値を示した「ドルインデックス」は、2014年7月から上昇を開始して1年以上もの期間「ドル高トレンド」を形成しています。その背景には今年2015年3月に導入した欧州の量的緩和への思惑が織り込まれる過程でのユーロ売りや、日銀が2014年10月31日に実施した追加の量的緩和策による円安ドル高といった要因も織り込まれているのですが、南アフリカランドやブラジルレアルといった新興国通貨も長期間のドル高新興国通貨安のトレンドを形成しており、アメリカが利上げに向けて動き出したことを織り込んでのドル高トレンドが1年もの長期間続いたという見方も外れてはいません。となると、世界の金融市場はアメリカの利上げは十分に織り込んでしまっているという見方も出来ますね。

金融市場には「知ったら終い」という格言があります。実際にその材料を知ってしまったら(世に出てしまったら)相場はお終い、という意味で、事実を知ってから買うと高値掴みになると警鐘を鳴らすものです。むしろ、その材料が事実として世に出てきた時は売り場(利食い場)であることを示唆する「噂で買って事実で売る」という格言もあります。これは、その材料を期待して相場が先に先にとその方向にトレンドを形成している場合に限ってのことですが、アメリカの利上げを巡っては1年前からドル高のトレンドが形成されており、格言通りとなるならばむしろ利上げが実施されれば、ドルの買い持ちポジションは利食い場となり、その相場は終いとなる可能性があるということです。

世界の景気が好調で、アメリカの利上げが1回だけにとどまらず、継続的に引き上げても問題ないという環境にあれば初回の金利引き上げはこれから長期に渡っての米金利上昇のスタートということになりますので、ドル高は長期化すると考えられるのですが、現状では、利上げ時期も当初6月予想だったものが9月に後ずれしており、その9月利上げ予想でさえ後ずれするとみられる有様です。もし9月に利上げができたとしても長期間の低金利政策という異常事態をようやく正常に戻すだけにとどまり、継続的に利上げすることは難しいとみられています。金利引き上げが継続的に行われるという展望が描きにくい現状では、利上げが「知ったら終い」となりドル高トレンドが終わってしまうトリガー(きっかけ)となってしまう可能性もあるのです。

また日本の貿易収支は昨年2014年には原油や化石燃料の購入が嵩み12兆円を超える赤字を計上、それが円安圧力となっていましたが、原油価格が大きく下落したことから、2015年年上半期の貿易収支は1兆7251億円の赤字にとどまっており、この分でいくと2015年の貿易赤字は2014年と比べて10兆円もの縮小となります。10兆円分の円安ドル高の材料がなくなっているということですから、この先、ドル円相場が上昇するというシナリオは描きにくくなってきています。

また7月の国際収支統計で、法人の対外投資にかかわる第1次所得収支は2兆2312億円の黒字であることが明らかとなっています。7月としては比較できる1985年以降では最も大きい黒字となっています。日本発の外貨建て資産は既に積みあがっており、海外に投資されたものはいずれ戻ってくることや、対外投資の黒字もいずれ円に換えられる際には膨大な円高圧力となってきます。今すぐにということではありませんが、円安ドル高材料とされてきた材料がことごとく消え去ってしまっていることには留意しておく必要があります。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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