マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。世界的な株式市場の波乱はまだ燻ったままの印象です。まだ底値を確認できる状況には至っておらず、不安定な相場が続いています。上値を追う展開に転じるきっかけも依然として見えていないというのが現実でしょう。引き続き、ここは「休むも相場」と割り切ってしまうことも重要な選択肢と位置づけておきたいところです。
さて、今回採り上げるテーマは、「不祥事」です。なかなか穏やかではないテーマですが、昨今、内外の大企業においてさえ悪質な不祥事が露見するケースが増えています。後ろ向きのテーマはやや不本意ですが、この話題にも触れざるを得ないと判断しました。一般に不祥事とは社会的信頼を失わせるような出来事を指しますが、ここでは意図的な決算操作やデータ捏造といった企業倫理を問われる振る舞いという定義でコラムを進めたいと思います。
まず、確認しておきたいことは、不祥事を外部から合理的に予見することはまず不可能だ、ということです。不祥事発覚時にはよく、「アナリストなのにそんなことも分からなかったのか!」との声をいただくこともあるのですが、それは現実問題として無理筋なご指摘なのです。そもそも株式が上場する限りにおいては、会社から公開されるデータに嘘はないことが大前提なのです。実際、決算数字に至っては第三者による監査まで入っており、その数字そのものに疑いを持つことはまずありません。逆に、データに嘘があるかもという前提を認めてしまうと、会社が発信したものに何一つ確かなものがないということに繋がってしまいます。すると、株式を公開することすらその妥当性を失うことになってしまうのです。自身の経験を振り返っても、「なんだか怪しい決算だな」と思うことは少なからずありましたが、それが企業倫理を問われるような意図的な操作という可能性はまず除外して考えるのが自然でした。言い換えると、投資家にとって不祥事に遭遇することは(誤解を怖れずに言えば)「もらい事故」のようなものとも位置づけられるでしょう。中にはカンの利く方もおられるかもしれませんが、こればかりはいくら注意していても外部から事前に見破ることはまず難しいのと受け止める必要があります。
すると、投資を考えうるうえでは不祥事発覚後こそが重要となります。不祥事発覚で株価が急落した後、株主であれば、損切るのか、そのまま塩漬けとするのか。株主でなければ、本業の収益力やブランドに影響はないとして絶好の買い場と捉えるのか、見送るのか、の判断です。残念ながら、これに正解はありません。唯一言えるのは、不祥事を企業再生のきっかけとできるかどうか、がその分水嶺になる、ということでしょう。ここでは、再生の糧にできるのかどうかに関して、100%ではないですが、見極めのパターンをご紹介したいと思います。
こういった時に筆者が一番注目するのは、①明解な人心一新が図られたか、②不祥事の総括(原因究明、損害額の見積もりなど)がなされたか、③それらを迅速に断行したか、の3点です。当たり前の視点ですが、実はこれをしっかり実行できる企業は決して多くありません。会社勤めの方なら容易に想像つくでしょうが、人心一新なしに過去の抜本的反省は非常に難しく、総括なしの再スタートに説得力はありません。また時間が経てば経つ程、危機感は麻痺してしまいおざなりの総括となってしまいがちなため、です。そして、不祥事発覚後の混乱期に、それを断行するリーダーシップを実際に取れるかどうかもまた、簡単なことではないでしょう。企業再生のきっかけとすべしとする原則論は社内外から多くの賛同を得るでしょうが、各論となると議論がまとまらなくなる現象もありがちです。そう考えれば、上記の3点をクリアしてきた企業は、もちろん不祥事は褒められたものではありませんが、再生に向けての方向付けがしっかりとなされたのではないか、との判断も可能と考えるのです。もちろん、例外もあり、上記3点をクリアしなくても企業再生を見事に実現する企業は確かに存在しています。挙げた3点は、一つの目安としてお考えください。
ただし、処理が中途半端な場合、社内で相当なリーダーシップが発揮できなければ、不祥事を招いた企業風土は温存されてしまいかねません。投資家にとっては、将来また「事故」に遭うリスクを拭いきれない、ということにもなるはずです。このリスクの払拭には、企業は真摯な姿勢で相当の時間をかけて取り組む必要があります。病気発症が発覚したところに外科手術でなく漢方薬で治そうというようなものですから、長期間の節制はむしろ当然でしょう。不祥事の発覚した企業がどういった形で整理をつけていくのか。投資チャンスはあるのか。しっかり見極めたいところです。
コラム執筆:長谷部 翔太郎
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