マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
アメリカの年内の利上げに懐疑的なムードが漂い始めています。先週はFRBの理事2人が早期利上げに否定的なスタンスのコメントを出しています。2人の理事は「インフレ見通し」において慎重になっているようです。
FOMCの投票権を持つメンバーは理事会から7名の理事(7名総数ですが、現在2名が空席のため5名)と、5名の地区連邦銀行総裁の現在10名によって構成されています。(空席なき場合の通常は12名)地区連銀総裁の間で意見がばらつくことは珍しいことではないため、それほど気にすることないのですが、今回はFRB理事の間で意見が割れていることが明らかとなったのです。
10月12日、 ブレイナード理事は「世界経済の減速や中国での混乱など国際リスクが米経済の足かせとならないことが明確になるまでFRBは利上げを見送るべき」と発言。ブレイナード理事は以前から利上げに慎重な発言を繰り返しており、今回が特にサプライズ発言ということではありませんが、「労働市場の改善がインフレ見通しを判断するための十分な統計とは考えられない」とし、フィリップス曲線を支持する論拠は「よく言っても非常に弱い」と論じたことが注目されているようです。
そして10月13日、タルーロ理事は、「最近の失業率低下を考慮すると、インフレ率は想定通りに伸びておらず、物価上昇がいつ加速に向かうのか不透明。FRBはインフレ加速の具体的な証拠を待つべきだ」と発言。
この両理事は、失業率は低下していてもインフレにならないことに懸念を示しているのです。さて、ブレイナード理事が論じたフィリップス曲線とはいったいなんでしょうか。
簡単に説明すると、フィリップス曲線とはインフレーションと失業の関係を示したもの。縦軸にインフレ率、横軸に失業率をとったときに、両者の関係は右下がりの曲線となります。短期において「失業率を低下させようとすればインフレーションが発生」し、「インフレーションを抑制しようとすれば失業率が高くなる」ということを表しています。これだけ失業率が下がってくれば(アメリカに失業率は完全雇用と呼ばれるところまで下がっている)もっとインフレが進んでいてもおかしくないがインフレがその想定通りには伸びていない、という現状に対してブレイナード理事は「フィリップス曲線を支持する論拠が非常に弱い」と指摘しているわけです。
確かに先週発表された9月米小売売上高は前月比+0.1(予想+0.2%)8月分も下方修正され、自動車を除いた数値も2カ月連続での前月比マイナス圏と低調。また9月生産者物価指数も前月比▲0.5%(予想▲0.2%)と予想を大きく上回るマイナスで、低インフレである実体が浮き彫りとなってきています。これも利上げ期待を大きく後退させる要因となっています。
ただし、5名のうちの他のメンバーであるフィッシャー副理事は11日、米経済が年内の利上げ実施に値する十分な力強さを備えている可能性があるとの認識を示していますし、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、世界経済の成長鈍化によってインフレ見通しが損なわれない限り、米金融当局は年内に利上げを実施するとの見通しを示しています。また、イエレン議長は9月24日の講演で、2015年中のいずれかの時点での利上げが適切になるとの見解を示しており、FOMCメンバーの中で年内利上げを支持するグループの中には「私自身を含む」と明言しました。つまり、5名の理事のうちイエレン議長を含む3名が年内利上げのスタンスであり、まだ年内利上げの可能性は十分に残っているとみることもできます。
ここからのマーケットも引き続きアメリカの利上げ時期を巡って、アメリカの景気指標(特にインフレ関連指標)に神経質に動くと思われます。指標が弱ければ年内利上げの可能性が後退しドル安に動くという相関で、ドル円相場は下落圧力が高まることに。ただし、下値も固くドル円相場もユーロドル相場も長期に渡ってレンジ内での推移が続いています。市場のムードは利上げに懐疑的とはなっていますが、まだ完全に年内利上げの可能性が後退したわけではありませんので、レンジの下限では逆張りでドルを買ってみるというスタンスでトレードしています。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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