第62回 「建設」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第62回 「建設」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。ようやく日経平均も徐々に戻り基調が鮮明になってきたようですが、米中の景気観測が決して楽観できない中、国内景気も停滞感は着実に増してきた印象です。ファンダメンタルズ面での材料が乏しくなる中、市場は今後、何がしかの政策催促相場という様相を呈しつつあるように思えます。当面は政策相場と割り切って臨む必要があるかもしれません。

さて、今回採り上げるテーマは、「建設」です。今月、横浜で傾斜が問題化していたマンションにおいて、その原因が基礎杭のデータ偽装にあったことが発覚しました。前々回に「不祥事」をテーマで採り上げた時の通り、事前にこういったことを株式市場が予測できるはずもなく、事件発覚後、当該企業の株価は当然大きく下落しています。そもそも単純に考えれば、将来的に大きな問題になるだろうことは明白なのに何故こういったことが起きてしまったのか。憤りを感じることはもちろんですが、素人目にはむしろ不思議でなりません。まして、建設業界では2005年に姉歯設計事務所による構造計算書偽造が業界を挙げての大問題となったところです。時を置かず似たような事件となったことは、非常に残念としか言いようがありません。今回、問題の原因となった企業が全面的な補償に応じる姿勢を見せていることは当該マンションにお住いの方からすれば不幸中の幸いと言えるのかもしれませんが、施工業者や販売業者のブランドに大きな傷跡を残すだろうことは想像に難くありません。もちろん、ほとんどの建設業者は高いモラルを持って業務を遂行しているのでしょうが、こういったケースが一例でも起きてしまえば、業界全体の信用が揺らいでしまうことになりかねません。

なお、こういったことが起きると、建設業界の抱える下請け構造をその原因とする声が挙がりがちです。しかし、過去に何度もそういった指摘がなされつつも、下請け構造が厳然として残っているということは、実はそこに合理的な点も少なくなからずあることを冷静に見ておく必要があります。元請となる建設業者が一から十まで自前で施工するのが理想なのでしょうが、実は現実的ではありません。極端な例ですが、基礎工事と内装工事、どちらも重要な工事ですが、内容は全く異なるうえ、これらは一つの物件において決して同時になされることもありません。つまり、常に他方の人材は稼働していない、という状況になってしまうのです。また、各工事においての技術革新も全て自前で研究し対応するとなると、そのための投資も膨大となります。むしろ、餅は餅屋のごとく、競争力ある専門業者に(下請けとして)外注する方が実は効率的であり、延いては建築コストの低下にも繋がる部分が少なくないのです。下請け業者も、専門工事に特化することで、競争力に磨きをかける構造になっています。下請け構造の問題を否定する気はありませんが、そのメリットもまた軽視すべきではない、と考えるのです。

本題に戻りましょう。では、株式投資を考えるうえで、この事件からどういった将来を考えるべきでしょうか。まず予想されるのは、建築コストの上昇です。下請け工事の減少や今まで以上に厳密な管理をする必要が出てきたことで、その分負担が増すことは避けられないと考えます。そしてそれは最終販売価格や賃料にも早晩跳ね返ってくるはずです。事件があったために仕方ないとはいえ、厳しい代償となってしまうことを覚悟しておく必要があるでしょう。とはいえ、これは新たなビジネスチャンスにもなりうるとも言えます。既に、管理を専門とする企業も多数存在していますが、そういった企業は業容拡大の好機と捉えるかもしれません。これらはまた外注頼りと批判の声も出るかもしれませんが、前述の通り、専門家集団に委託するメリットもまた小さくないことは明らかです。なんといっても、どうしてもコスト高となってしまう状況を極力抑制するには、やはり(専門分野別の)分業化という選択肢は不可避であるように思えます。

さらに、いくら(コスト高を容認し、また専門家への外注などを以って)管理を強化しても、ミスを撲滅することは不可能です(今回のような故意の疑いがある場合は別です)。であれば、発想を変え、ミスが起こってもその被害を最大限抑制できるシステムを構築しておくという方法も実用性があるのかもしれません。現在、そういった方法には保険という金融商品で対応するしかありませんが、ここにも新たなビジネスが生まれる可能性があるとも考えます。ピンチはチャンスです。変化の先取りは投資面でも絶好のチャンスと位置づけたいところです。

コラム執筆:長谷部 翔太郎

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