マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国独自の政策である一人っ子政策(計画生育政策)は、1970年代に始まり、1979年に全国で導入されました。
36年を経て、先々週に同政策の廃止が決議され、全ての夫婦に第二子を設けることが認められる見込みです。
もっとも、「第二子まで」との制限は続きますので、「一人っ子政策」改め「二人っ子政策」と言うのが正確かもしれません。
一人っ子政策の導入後、中国では急速に少子化が進み、寿命が延びたこととあわせ、高齢化にも拍車がかかりました。
合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数)は、1972年には4.98でしたが、政策実施直後の1982年には2.86に低下し、その後1995年には1.99と2を下回り、さらに2010年には1.18にまで低下しています。
日本では、1989年に「1.57ショック」と言われ社会の関心が高まり、その後は1.3から1.4前後で推移していますが、中国の少子化は日本をはるかに上回るスピードで進んでいます。
一人っ子政策の最大の弊害はもちろん少子化ですが、「男女比のアンバランス」も重大な問題です。
「子供を一人しか持てないのであれば男児を」、あるいは近年の緩和後は、第一子が女児である夫婦が「第二子は是非男児を」ということで、若年層では「男余り」が生じています。
政策実施後に誕生し、現在三十代にさしかかっている多くの男性が、未婚のまま高齢化することで、社会福祉制度上の大きな負担になることが危惧されます。
政策の廃止により、少子化の傾向は多少は緩和されるでしょうが、男女比のアンバランスは人々の価値観に根差すものですので、今後も中国社会にとって、長く問題となりそうです。
今回の政策変更の背景については、様々取りざたされていますが、経済成長の減速に直面した政府が、出産を奨励して個人消費を喚起したいと考えたこと、また人口増により、生産年齢人口の低下に歯止めをかけ、将来、年金制度など高齢者福祉の政府への負担圧力を少しでも和らげたいと考えたことが理由と思われます。
もっとも、一人っ子政策が廃止されても、皆が「是非二人目を」と考える訳ではなく、廃止の効果を疑問視する声も多く聞かれます。
ここ数年、一人っ子政策は徐々に緩和されており、その都度出生数の増加が期待されたのですが、実際には第二子を持つことができる夫婦のうち、実行したのは2割程度にとどまっています。
日本と同様、中国でも都市部では住宅事情や教育費の負担など、政策を抜きにしても少子化を加速する要因が多々あり、第二子をためらう夫婦が多くなることも当然と言えます。
一人っ子政策の廃止により、約9,000万組の夫婦が、新たに第二子を持つことが認められる見込みですが、このうちどれだけが出産に踏み切るのか、楽観は出来ません。
それにしても、中国は土地が国有であったり、また妊娠、出産が国の管理下に置かれたりと、これぞ社会主義と思わせられる一方、「親の七光り」が物を言う、あるいは起業家が続々誕生するなど、社会主義と程遠い世界も見られ、一言では語れない複雑さがあります。
「こんな社会で生きるのはなかなか大変かも」という感想も漏れてしまいます。
一人っ子政策の廃止もあり、2030年の中国の人口は14.5億人に増加すると予想されています。
人口第一位の座はインドに譲ることが確実視されていますが、これだけの大国ですので、政策変更によっても、国全体が変化するためには時間がかかります。
政府が今後どのように舵を切り、意図された結果を得ることができるのか、注目していきたく思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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