第63回 「電力自由化」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第63回 「電力自由化」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週、初の国産ジェット機であるMRJが遂に試験飛行に成功したとのニュースが飛び込んできました。当初の計画からは数年の遅れとなりましたが、これにより小型航空機市場への参入期待は一気に膨らみ、株式市場でも関連銘柄を再物色する流れが起こりました。やはりこういったニュースは心躍るものがあります。日本企業主導の世界的なM&Aも頻発してきており、一時は勢いをなくしていた日本企業も今や積極的に困難に挑戦する状況が日常的になってきました。国内の景気動向はやや停滞感が否めなくなってきましたが、日本企業は着実に進化しているのだと実感しています。改めて、投資の醍醐味と言ってよいこういった企業の発掘に注力していきたいところです。

さて、今回採り上げるテーマは「電力自由化」です。新聞でも特集を組み始めたところが出てくるなど、このテーマは徐々に目立つようになってきました。そこで今回は、注目される前、もしくは注目された後に言及する、とのこのコラムの基本に立ち返り、少し前倒しとなるこのテーマについて考えてみたいと思います。個人的にですが、このテーマは非常に息の長いものになるのではないか、と期待しています。

まずは「電力自由化」というものをおさらいしておきましょう。これまでの電力事業というのは、公共性の高さから地域毎の電力会社がその地域で独占的供給を行うという体制(いわゆる「9電力体制」)が敷かれていました。1995年にようやく競争原理導入の要請もあって部分自由化が実現され、電力事業への新規参入も可能となったのですが、その規模は極めて限定的で競争原理導入という状況にはほど遠い状態にありました。しかし、2011年の東日本大震災を機に、電力システムの強化を推進する声が高まり、改正電気業法によってより抜本的な自由化が2016年4月から段階的に施行されることになったのです。来年4月からの自由化では、新電力会社による電力小売が全面自由化され、一般家庭向けに電力の販売が可能となるほか、2020年には電力の発送電分離にまで踏み込む予定となっています。

当然、こういった施策は電力事業への新規参入や競争原理の浸透を促します。大手電力会社自身も早くも従来の地域枠に囚われない動きを見せ始めるなど、着実に自由化を睨んだ布石を打ってきているように思われます。かつては堅い社風というイメージが浸透していた電力会社ですが、果たして既成概念を打ち砕く経営へどれだけ舵を切れるのか、非常に興味のあるところです。もちろん、競争激化は既存事業にとってはピンチであることは明らかですが、そのピンチをチャンスに変えることができれば、電力会社の株式評価も大きく変わってくると想像します。株式投資の世界においては、東日本大震災以前の電力株は成長性よりも安定性が評価され、配当利回り株との位置づけが主流でした。震災という未曾有の禍はありましたが、その後の電力会社はまさに生き残りを賭けた企業戦略が問われる局面へ移行したと位置づけられるでしょう。投資家目線で見ても、この変化は非常に重要なものになると考えます。

さらに、競争原理の導入が新たな技術革新を促進する点も要注目です。旧国鉄は民営化されたことで新型新幹線の開発に弾みがつきました。電力会社は予てから民間企業ですが、強烈な競争に晒されていなかったという点では国鉄と共通点があると言ってよいかもしれません。より効率の高い発電設備やより画期的な再生可能エネルギーへの取り組みなども、競争があれば加速していく可能性が増すでしょう。様々な議論を呼んでいる原子力発電に関しても、何がしかの解決策が提示されてくるかもしれません。現時点ではまだまだ荒唐無稽ですが、競争原理の中で偉大な発明や革新が進展してきた歴史を見れば、こういった自由化こそが解決に向けての近道になるのではないか、と思えるのです。

それ以上に、競争によって電力料金の引き下げが実現すれば、特に電気を多く消費する製造業者ではコスト競争力の改善も期待できます。市場原理の導入が料金引き下げを必ずもたらすと考えるのは実は早計ではあるのですが(場合によっては値上げもあり得る)、まず価格は低下傾向をたどると考えるのが自然でしょう。電力多消費型産業において、電力自由化は国際競争力の強化への力強い追い風になる可能性があるのです。こういった他産業への波及効果も考えれば、電力自由化のインパクトは非常に大きなものがあると推定できます。筆者がこれを息の長いテーマになると考えるのは、こういった波及効果を想定しているためなのです。

コラム執筆:長谷部 翔太郎

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