マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
先週末、現地時間の13日金曜夜、フランスのパリで同時多発テロが起こりました。イスラム過激派ISISが犯行声明を出しています。犠牲者の皆様のご冥福をお祈りします。
「有事のドル買い」という言葉があります。有事には基軸通貨であるドルが上昇するとされています。基軸通貨であるということは流動性が高いということ。安全資産という意味合いから米国債や米ドルが買われることを差しています。
2001年の同時多発テロの際はその米国自身がテロの標的となったことで、米ドルはテロ直後は急落し、有事のドル買いという教科書通りの値動きとはなりませんでした。この時は、米国の株式市場が取引を停止する異常事態となりましたが、テロを受けてダウ平均は700ドルを超える下落となり、ドル円相場もテロ前日の9月10日は1ドル121円台だったものが、その後の10日間で115円台にまで下落しています。4%超の下落ですね。このことから9.11以降の世界では「有事のドル買い」はマーケットのセオリーではない、との指摘も聞かれるのですが、本当にそうでしょうか。
実は9.11同時多発テロ発生のドル売りが一巡した後、ドルは猛烈な勢いで反騰し同年12月末には132円台へと上昇しました。この時はアメリカ人が愛国心からドルと株を買い支えた、などと解説されたりもしましたが、結果的にはテロ発生で4~5%程度急落したものの、その後14~15%もの上昇となったのです。私は「有事のドル買い」は米国が当事者となった9.11の時こそマーケットに色濃く反映された、と思っています。
では今回の場合はどうでしょうか。発生直後(13日金曜夜)に為替市場は神経質な値動きを見せましたが、それほど大きな反応は示していません。有事のドル買いセオリーが生きていれば素直にドル買い、ユーロ売りであるだけでなく、今回のパリのテロはユーロ圏であるため、ユーロ売りとなると思われますが、実際にはユーロドル相場は13日(金)終値の1.0733ドルから1.0686ドルまで窓開け急落も、その後1.074ドルまで反発。ただし、ユーロは頭が重く小幅な値動きに収まっており、あまりはっきりしたユーロ売りにはつながっていません。
ユーロ相場は12月3日のECB理事会で追加緩和政策が発表されるという思惑が広くマーケットに織り込まれており、すでに下落していたことも値動きの複雑さに繋がっています。11月3日時点の投機筋の建玉明細をみるとユーロロング72,883枚 VS ユーロショート207,217枚となってとり、ネットではユーロショートが134,334枚へと膨らんでいます。前回105,934枚からショートが積みあがっていることから、売りが買い戻されて巻返しが起こった際のユーロ高への警戒も強まっているものと考えられます。欧州の株式市場が大きく崩れることがあれば、ファンド勢は利益の出ているポジションを我先に手仕舞おうとします。為替市場ではユーロショートポジションが大きいことから、その買戻しへの警戒が欧州圏内でのテロであるにもかかわらず、ユーロ下落を阻んでいるのかもしれません。
また、安全資産という考え方の中には「円」も入ります。リスクが発生すると円買いが起こり、ニュースなどでも「比較的安全資産とされる円が買われる動き~」などと解説されたりします。異次元の量的緩和を実施し、価値が薄まった円が安全資産であり続けるだろうか、という疑問もありますが、米国以外の世界中が緩和政策をとる中においては「他に買う通貨がない」のも現実。週明けドル円相場は13日(金)NY終値122.40円台から週明け東京マーケットの寄り付き直後に122.20円近辺まで窓開け急落も、その後大きく切り返し反発。月曜ロンドン時間には123円台まで上昇しています。これは有事のドル買いによるドル円の上昇ということではなく、年末相場へ向けたラリーといった印象であり、あくまでドル円相場においては「有事の円買い」反応のほうが自然な解釈であり、東京マーケットオープン直後の円高で、有事を嫌気したリスクオフの影響は出切ってしまったと思われます。
2015年は米利上げ観測が主軸のテーマであった1年ですが、夏にはチャイナショックというリスクにマーケットは乱高下。今年はヘッジファンド勢のパフォーマンスは思わしくないという報道が相次いでいる中で、年末に向けた最後のラリーとなる時期の同時多発テロ発生。一部には12月利上げに懐疑的な見方も出ている模様で、まだまだ年末に向けて波乱は続きそうです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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