第139回 中国の貧富の格差は深刻な問題 【北京駐在員事務所から】

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第139回 中国の貧富の格差は深刻な問題 【北京駐在員事務所から】

世界第二位の経済大国となった中国ですが、国内の貧困問題や生活水準の格差(沿岸部と内陸部、あるいは都市部と農村部)は深刻な問題です。
北京の中心部におりますと、欧米有名ブランドのブティックが軒を連ね、また高級車が風を切って走る光景が目に入り、まさに先進国と実感させられる一方、テレビニュースでは、遠く離れた井戸への水汲みが日課となっている農村部の子供たちの様子が伝えられています。「一体いつの時代の話だよ」と突っ込みを入れたくもなってしまいます。

中国は、1978年以降、合計7億人の国民を貧困水準から脱出させ、また国連が2000年に定めたミレニアム開発目標の一つである「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる」を世界で最初に達成した発展途上国です。
しかしながら、昨年末の時点で、なお7,017万人が、政府が定めた貧困水準(年収2,300元(約44,000円))以下での生活を強いられています。
習近平国家主席は、先月北京で開催された国際会議で、「国内の貧困問題と戦うとともに、他の発展途上国、特に最貧国の支援にも取り組む」と述べています。

中国政府は、2020年までに、上記の7,017万人を貧困水準から脱出させることを目標としており、金融機関に対し補助金を支給し農村部での起業のための小口融資を促す、また今後5年間、貧困地域でのインフラ整備事業を増やし、就業機会を創出する等の施策を講じるとしています。
実際、高速鉄道の建設、開業を見ても、沿岸部の南北方向の路線はほぼ整備が完了しており、今後は西向きの、貧困地域を含む内陸部への延伸が数多く計画されています。

また、先日こちらで行われた日本人エコノミストの講演会では、貧富の差の是正策として、農村部から都市部への人口移動(都市化)により生活水準を向上させ、あわせて農村部では大規模化とIT化で生産効率を上げ所得増を図ることが有効と指摘されていました。
ただ、都市化については、中国の戸籍制度(都市戸籍と農村戸籍の分離)や北京、上海など大都市での交通渋滞、大気汚染などの問題もあり、実現はそう簡単ではありません。
恐らく政府は、各省の省都レベルあるいはそれ以下の規模の都市に、農村部の住民を誘導する政策を取るものと思われますが、高水準の賃金を望む人々が大都市に押し寄せることは必然で、政府が意図する方向で都市化が実現するのかは予断を許さないものがあります。

ただ、「抗日戦争勝利70周年記念軍事パレードのために国際空港を閉鎖する」国ですので、政府がその気になれば何でも出来てしまうのかもしれません。

中国では、鄧小平元副主席が改革開放政策の基本原則としての先富論(可能な者から先に裕福になれ、そして落伍した者を助けよ)を唱え、これにより東部沿岸部での経済発展が進み、結果として貧富の差が拡大しました。
日本でも、昨年「トリクルダウン」が流行語の一つになりましたが、一たび貧富の差が形成されると、底上げが図られても、差が縮小することは難しいものと思われます。

中国で、富裕層がこぞって海外不動産の購入や子女の留学に動く一方、極めて低い水準での生活を余儀なくされる人々が存在するのを見ますと、これが果たして一つの国なのだろうかという疑問も生じてしまいます。
これまでは、高い経済成長が続き、貧困水準以下の層の人々も、それなりに生活の質の向上を実感できたのでしょうが、将来、成長が一段と鈍化し、あるいは止まった時点で、低所得層の人々が格差を目の当たりにし、不満を爆発させることにならないか、心配になってしまいます。

個人的な考えですが、都市と農村の経済格差、あるいは沿岸部と内陸部の格差は、将来、中国社会の重大な不安定要因になるように思えてなりません。
政府が、あるいは人々がどのように問題を緩和し、また解決していくのか、注意深く見守りたいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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