マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
為替スワップ市場でドル調達コストが急騰し、日本勢から悲鳴が上がっているー。このところの金融市場での不可解な動きを警戒する声が出始めています。ドル調達コストの急騰とはどういうことなのでしょうか。
2015年も残すところ1か月あまり。今年は12月3日にECB理事会での追加緩和が目されているほか、12月16日のFOMCではアメリカの利上げが広く織り込まれているものの、米欧の金融政策というビッグイベントが控えていることからまだまだ気が抜けません。通常ですと12月というのは、欧米勢がクリスマス休暇に入ることから市場参加者が減少し、値動きが乏しくなる、もしくは市場が薄い中で思わぬ大きな値動きになるリスクもある、などとされていますが、今年はどうでしょうか。もともとは欧米企業の多くが決算期となりますので、決算に向けてポジション調整が起こりやすく、ドルのレパトリエーション(資金の本国還流)が起こるため、ドル高になりやすいとされています。つまり「ドル需要が高まる」ということですね。ということで、12月は欧州の追加金融緩和にアメリカの利上げ、という金融政策をとってみても教科書的には「ドル高」になりやすいうえ、季節要因からみてもドル高になりやすいということで、年末に向けてドル/円相場は今年の高値である125円を目指す上昇となるのではないか、という見通しもあるのですが、、、。
そうした楽観シナリオに警鐘を鳴らす向きもあります。日本の投資家はアメリカの外貨建て資産に投資する際、あるいはM&Aなどで米ドルが必要となる際、為替市場で円を売ってドルを買うという調達をすることもありますが、それだと為替変動リスクがありますね。為替変動リスクを回避するために、為替スワップなどを利用し、円を担保としたドルの短期資金借り入れを行ってドル資金を調達することも多いのです。スワップですから「交換」です。互いのニーズが合致した投資家同士で、ドルと円を交換するというやり方ですが、もちろんタダで交換できるわけではありません。為替スワップでは日本より米国の金利水準が高いため、その分のコストを払うことになります。その日米金利差にさらに上乗せされるコストを「ベーシス」と呼ぶのですが、12月米利上げ観測が強まり、年末・年度末を控えて日本勢がドル調達に走っているとみられ、このドル調達コストが急上昇しているのです。
今月9日の取引ではベーシスが88bpまで急騰し、リーマン・ショック直後の2008年10月以来の水準に達しました。年初は20bp程度だったベーシスは7年ぶりの高水準を維持したままです。なぜこのような事態となっているのでしょう。
実は、今年9月にもドル調達コストが欧州危機の時の水準まで上昇し話題となりました。この時もちょうど9月期末だったことで期末に向けた外貨ポジションの圧縮という季節要因が関係していたとみられますが、ちょうどこの8~9月はチャイナショックに市場が揺れていた時期でもあり、中国などの新興国が自国通貨防衛のため外貨準備を取り崩してドル資金を確保する動きに出たことで、ドル調達コストの押し上げにつながったとみられています。
今回も、年末年始を控え、また、アメリカの利上げを控えて、今のうちにドルを調達しておこうという動きが世界的に加速している可能性は否めず、異常事態となっているのかもしれません。あるいは、将来少子化が明らかである日本企業のM&Aが活発であることも、ドル調達ニーズを高めているとみられ、これが利上げ前のドル調達を急がせているのかもしれません。
為替スワップ市場でのドル調達コストが上昇すると一体何が起きるのか?!コスト急騰に耐えられなくなれば、素直に為替市場でドルを買う動きが出てくるかもしれません。ドル需要の高まりからドル不足に陥り、結局は市場でドル買いをしなくてはならないという動きにつながることでドル高になる、ということで、ここからさらにドル高になる可能性があるニュースだと指摘する声もありますが、リーマン・ショック時と同レベルにまでドル調達コストが急騰していることを重く見ている専門家もあり、リスクオフ相場の引き金となるような不穏な動きが水面下に広がっているのではないか、と警戒する声もあります。リスクオフ相場、ということになれば「ドル高、円高、ユーロ安」です。つまり、ドル/円相場は円高となる、というリスクを警戒する声があるということ。この点にも留意しておきたいところです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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