第140回 大気汚染問題に対する北京市政府の取り組み 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第140回 大気汚染問題に対する北京市政府の取り組み 【北京駐在員事務所から】

中国の大気汚染は一年を通して発生していますが、北京を初め北部では特に冬に酷くなります。日本での報道も冬場に集中していますので、ご理解をいただけるかと思います。
風の弱い日が続く気候も一因ですが、最大の要因は暖房(一般家庭でのものに加え、広域での温水暖房が導入されています)用の石炭燃焼に伴い発生する煤塵(ばいじん)です。
広域暖房は毎年11月の初めから試運転を始め、11月15日に本稼働となります。今年は冬の訪れが早く、市民にとっては広域暖房の稼働でようやく一息というところです。

北京市政府は、大気汚染防止策の一環として、広域暖房用のボイラの熱源を、石炭から天然ガスあるいは電力に置き換えています。
先月末までに、市中心部の6つの区で、石炭を用いるボイラが全廃され、天然ガスあるいは電力を用いるボイラが導入されました。これにより、石炭使用量が147万トン削減され、二酸化硫黄の排出は12,500トン、窒素酸化物の排出は4,300トン、それぞれ減少する見込みです。
北京市では、今後は残りの10の区及び県で、石炭ボイラの廃止を進め、2017年には広域暖房用のボイラの全てが、天然ガスあるいは電力によるものになる予定です。
天然ガスボイラが主流とのことですが、郊外に立地し、天然ガスの供給が難しいものについては、電力による計画としています。
2012年の北京市の石炭消費量は2,300万トンで、市全体のエネルギー消費量の4分の1を占めていました。今年の消費量は1,500万トンに、また2017年には800万トンにそれぞれ削減される見込みです。冬場の大気汚染の軽減につながることが期待されます。

石炭ボイラの廃止のほか、汚染源となる工場の操業停止や移転、また自動車の排気ガス規制の強化など、北京市政府は矢継ぎ早に対策を講じていますが、汚染物質は周辺地域でも発生し、市内に飛散してきますので、市独自の対策のみでは効果は限定的と言えます。
北京市に隣接する天津市や河北省を初め、各地方政府はそれぞれ対策に乗り出していますが、例えば工場の移転については、2008年の夏季オリンピック、パラリンピック大会開催時に、北京市から周辺部に大規模な移転を行った経緯もあり、それらの地域では「負担の押し付け」といった不満も聞かれています。
また、河北省はまだしも、さらに内陸の内蒙古自治区などになりますと、北京との経済格差も大きく、例えば自動車の排気ガスについても、コストとの関係で北京のような厳格な規制は出来ない状況です。
地球温暖化問題で、温室効果ガスの排出抑制で先進国と発展途上国が負担の押し付け合いをしていますが、大気汚染問題への対策という点では、中国国内に先進国対発展途上国の対立、いわゆる南北問題が存在する状況です。
2022年には北京で冬季オリンピック、パラリンピック大会が開催されますが、それまでには一段の改善が求められます。周辺地域を含め、一時しのぎに止まらない、恒久的な対策を期待したいものです。

先週の本コラムでもご報告申し上げましたが、北京市中心部の様子と、ニュースで目にする農村部貧困地帯の状況には、同じ国とは思えない大きな格差があります。
大気汚染の問題でも、地域間の経済格差が、問題の解決を難しいものにしています。
広大な中国、地理的な条件にも大きな差がありますので、経済格差の問題は容易に解消できないものですが、これが様々な問題の元凶となっていることが理解できます。

大気汚染への各地方政府の取り組みを通じて、中国が抱える大きな問題の一端が見えるように思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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