第65回 「小売」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第65回 「小売」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。11月はお預けとなってしまっていた日経平均の2万円回復をようやく果たし、株式市場はやっと落ち着いて見ることのできる水準に戻ってきました。既に期待値が織り込まれていた先週の欧州ECBの追加緩和は一旦失望売りという反応が出ましたが、これも市場が冷静に推移していることの現れでしょう。引き続き、当面はFRBでも政策金融イベントが予想されるなど、株式市場への材料には事欠かない状況にあります。地政学リスクやテロといった不安材料はまだまだ燻っていますが、一先ずは金融政策の動きを市場は織り込む展開を予想しています。忘年会シーズンとなってきましたが、体調には何卒ご留意を。

さて、今回は「小売」をテーマに取り上げたいと思います。11月末より、米国は年間最大のイベントとも言えるクリスマス商戦に突入しました。今年は、その初日となるブラックフライデーのセールを若干前倒しとする小売企業もあり、ムードは一気に年末色に染まったような印象です。そういった中、非常に興味深いデータが出てきました。全米小売業協会の報告ですが、ブラックフライデーを含む今年の4日間の感謝祭休暇において、オンラインショップ(ネット通販)には1億300万人以上の消費者が利用したというのに対し、同期間の実店舗に詰め掛けた消費者は1億200万人であったというのです。つまり、小売業において特に最も活況を呈する感謝祭消費において、ネット利用者数が実店舗訪問者数を初めて上回った、ということなのです。ブラックフライデーといえば、おもちゃ屋や百貨店などの店頭に開店を待つ人が大行列を成す風景というのが云わば定番ですらありました。しかし、今年はこの行列も以前に比べて緩和されたとの報告が散見されるなど、確かに変化の兆しがうかがえる状況となっています。ネット消費者の増加がさらに進めば、将来はこの定番の風景にも変化が出てくることになるかもしれません。11月11日にはネット通販大手アリババが中国で一日1.7兆円超もの売上を計上したというニュースも直近ではありました。こういった離れ業はまさに「ネットならでは」としか言いようがありません。

このことは、ネット通販が如何に浸透してきたかを痛切に感じさせる象徴的なデータと言えるでしょう。同時に、実店舗はその存在意義が問われかねない時代に突入したとも位置づけられるのかもしれません。実はネットショップが出現した時にも、実店舗は駆逐されるのではないか、といった同様の議論はあったのですが、実店舗でのみ可能なきめ細かい接客対応や実際に商品を手に取ることができる、といったリアルな体験プロセスは重要であり、ネットは恐れるに足らず、という判断が当時は多かったように記憶しています。ネット販売はあくまで限定的なもので、消費者はやはり自分の目と手で確かめるはずだ、という視点と言ってもよいでしょう。しかし、現実に利用者の数が逆転する状況を目の当たりにすると、改めて時代の変化を感じざるを得ません。既に、ショールーミング(実店舗で体験した後、注文はネット通販業者に出すという消費行動)という言葉も出てきていることを考えると、ネット販売の台頭といった流れはますます奔流となっていく可能性すらあります。すると、実店舗を抱える小売各社はどういった戦略で今後対処していくのか、ネットと実店舗の線引きは将来どこでなされるのか、は非常に興味深いところでしょう。当然ながら、株式投資においてもこのせめぎ合いの落としどころは大きな相場のテーマに発展する可能性があると考えます。

筆者の個人的見解としては、ネット販売と実店舗販売では取扱商品に今後明確な差が生じてくるのではないか、と想像しています。極端な例ですが、ネットで広く販売されるものはもはや実店舗では販売されず、実店舗で販売されるものは、その入手困難性がむしろ付加価値となるようネットには出品されない、というような図式です。その結果、自然と棲み分けがなされてくるのではないか、というシナリオです。もちろん、この想像通りになるかどうかはまだまだ議論の余地があり、これは一つの仮説にしかすぎません。しかし、仮説を提示し、それを検証することは、構造変化から生じる様々な相場(テーマ)を先取りする作業でもあるのです。テーマが注目されてから「提灯をつける」のも一手ではありますが、先んじて仕込んでおくというのも株式投資における必勝法の一つであることにも異論はないでしょう。まさに今構造変化が起きつつある小売業界をどう読むかは、株式投資という観点からも、非常に重要性を増してきていると考えます。さて、読者のみなさんはどんなシナリオを予想されるでしょうか。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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