マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
豪ドルやNZドルが上昇しています。オーストラリアの政策金利は2.0%、ニュージーランドは2.75%。ゼロ金利である日米欧と比べると金利がついているだけでも投資妙味は高いのですが、それでも豪ドルは2011年7月の1.1079ドルから2015年9月の0.6904ドルまで4年に渡って下落が続いていました。NZドルは2014年7月の0.8834ドルを高値に下落を開始、下落期間は1年程度でしたが今年2015年8月には0.6337ドルの安値を示現。オセアニア通貨は対ドルで売られる流れが続いていたのですが、足元では反発し上昇基調に入ったように見えます。
長期下落の背景は、オーストラリアの輸出品目である鉄鉱石など商品価格の下落が続いていたこと。ニュージーランドの主要輸出品である乳製品価格の下落も、通貨NZドルの下落の大きな要因となっていました。商品価格はまだ下落トレンドが継続しており底入れしたとは思えません。乳製品価格も然り。それなのに豪ドルやNZドルが上昇を始めたのは一体なぜなのでしょう。
背景にあるとされるのが、このところの欧州リスク。VWショックに難民問題。欧州の景気の先行きに不透明感が増す中、11月13日金曜日に起こったフランス同時多発テロ事件。そして欧州景気テコ入れのために追加緩和を導入したECB理事会。ユーロはすでにマイナス金利でしたが、12月3日のECB理事会ではマイナス金利幅が拡大されました。マイナス金利というのは、ユーロを保有しているとコストがかかるということです。ユーロを保有している投資家がコストがかかるユーロ買いをやめて、別のところへ資金をシフトする動きが出ているというのです。ではその代りに何を買うか?!米ドルはこれから利上げしようという通貨ですから投資対象となり得るとの見方もありますが、利上げをテーマにかなりドル高が進んでしまっています。利上げされれば材料出尽くしで逆にドル売りとなるのではないか、という予想も出てきており、米ドルへのシフトはここからの妙味が高いとは思えません。円はどうでしょうか。2014年に日銀がバズーカ2と呼ばれる量的緩和策を発表して1年あまり。2015年日銀が動くことはなかったのですが、冴えない4-6月期、7-9月期とGDPの数字が冴えなかったことから、市場には根強く日銀の追加の量的緩和策への期待が残っています。日銀が動くかどうかは定かではないにしても、日本は現時点でも量的緩和政策を実施しており、まだまだ金利が上がる通貨ではありません。円も買いにくいのが現状でしょう。
では、オセアニア通貨はどうでしょうか。商品価格(乳製品価格)の下落と相関して売りこまれてきましたが、政策金利は2%台にあり、買えばわずかであってもスワップ(金利差)収入が得られます。中国の景気減速リスクは一朝一夕に解決するわけではありませんが、この夏のチャイナショックでの株価下落はひとまず落ち着きを取り戻し、上海株は緩やかに上昇してきています。商品価格の下落が止まっていないものの、オーストラリアにとって最大の輸出先である中国の景気減速懸念で中国関連通貨として過度に売り込まれてきた豪ドルは、上海株が落ち着きを取り戻したことで買い戻されていると思われます。
豪準備銀行(RBA)が今年2月と5月に0.25%ずつの利下げを実施、政策金利を史上最低の2.0%にまで引き下げました。その過程で「資源価格の大幅な下落を踏まえれば、一層の豪ドル下落が起こり得るし必要でもある」とRBAは声明で、豪ドル安誘導スタンスを明確にしていたのですが、8月声明では「豪ドル相場は商品相場の大幅な下落に適応しつつある」に変更しており、豪ドル安誘導スタンスを後退させています。というのも、オーストラリアの第3四半期のGDPは前年比+2.5%と前回の+2.0%から立ち直ってきている他、シドニーやメルボルンの住宅価格は高騰を続けておりインフレが続いています。もうオーストラリアの利下げはないのではないか、という思惑が、豪ドルへの資金シフトを誘っているのでしょう。豪ドル上昇に連れて買われているNZドルは豪ドルより出遅れていた分、ここからの投資妙味も高いと思われますが、注意点として、先週のECB理事会では、市場の期待に満たない緩和内容であったことでこれまで売られてきたユーロが買い戻されて大きく上昇しており、ユーロの上昇が今後も継続するようだと、ユーロから豪ドル、NZドルへの資金シフトの流れが一旦止まる可能性もあるかもしれません。マイナス金利であるユーロを売って、金利のある通貨であるオセアニア通貨を買うという流れが今後もトレンド化するか否かを確認するには、ユーロがここから再下落となるか、底入れしたのかを見極める必要があるでしょう。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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