マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
南アフリカの通貨、ランド安が止まりません。2015年、南アフリカやブラジル、ロシアなどの新興国通貨は、アメリカの利上げの思惑が強まる度に売り込まれる年となりましたが、今週16日の12月FOMCを前に更なる下落加速となっています。先週は新興国通貨だけでなく、ドル円相場もこのところの重要なサポートであった122円を割り込む円高が進行、恐怖指数と呼ばれるVIX指数が急騰となるなど金融市場全般、リスク回避ムードが強まっています。止まらぬ原油安から、エネルギー企業や資源関連企業が発行するハイイールド債が急落しており、資源関連企業の破綻リスクが拡大していることも気がかり材料のひとつですが、南アフリカの通貨ランド安もまた、リスク要因の一つとして警戒が強まっています。
南アフリカの通貨、ランドの対ドル相場は2011年9月から下落がスタート。ドル/ランド相場におけるランド安トレンドは4年あまりにも及びます。ドル/ランド相場は史上最高値更新(ランドは史上最安値)しており、ランド/円相場は2008年10月24日に付けた史上最安値7.62円が目前に迫っています。
米国の利上げが迫る中、資源国への投資が引き上げられ米国に還流するレパトリが引き起こされていることも一因ですが、南アフリカの景気減速も資金流出につながっているとみられます。10月の南アフリカの貿易赤字は予想が49億ランドの赤字のところ214億ランドに拡大しており、また、7-9月期の経常赤字は1650億ランドと、前期の1240億ランドから増加、GDP比では前期の3.1%から4.1%に拡大しています。
こうした南アフリカ経済の減速を理由に、格付け会社フィッチ・レーティングスは4日、南アの外貨建て長期信用格付けを「BBB」から「BBBマイナス」、ランド建てを「BBBプラス」から「BBB」へそれぞれ一段階引き下げたほか、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はアウトルックを「ネガティブ」に変更しています。09年のリセッション(景気後退)以来の低成長と債務膨張で格付けが投資不適格級に引き下げられる恐れも出てきました。
こうした背景からランド安が止まらない相場となる中、さらに9日南アフリカのズマ大統領はネネ財務大臣を更迭したというニュースが飛び出し、ランド安を加速させています。この報道を受け、通貨ランド安だけではなく国債相場は過去最大の下落を記録、利回りは08年7月以来の(リーマンショック以来)高水準に達しています。南ア株の指標であるFTSE・JSE全株指数は11月4日に付けた高値から10%余り下げるなど、トリプル安の様相を呈しています。
何故、財務大臣の更迭がトリプル安を招いたのか?! ネネ氏は政府支出の抑制に取り組んでいました。これに対し、来年地方選を控えるズマ大統領は原子力発電の促進や航空会社の救済などで支出拡大を進める計画であり、財政を巡る不透明感が噴出したのです。世界の投資家によるポートフォリオの南アフリカ資産からの資金流出が続く恐れが警戒されたほか、さらなる格下げのリスクが高まったことが、ランド安を加速させました。ネネ財務大臣の更迭後、ズマ大統領は無名の国会議員デービッド・バンルーエン氏を後任に起用すると内閣改造を表明したことが財政の信頼性への打撃となり金融市場が混乱したため、週末13日、ズマ大統領は今度はゴーダン協調統治・伝統業務相を新財務相に指名したと発表。ゴーダン氏は財務相経験者であることから、週明けは急落していたランドが大きく反発となっていますが、わずか5日間に2回も財務相を交代させた大統領の人事に不信感は残されたままです。
このまま通貨ランドが下げ止まればいいのですが、再び下落となるようなら警戒が強まります。南アフリカの資産が下落するだけで済めばいいのですが、南アフリカへ投資していた投資家が損失を被ることで、損失補てんの手仕舞いが起こるリスクがあると考えることもできます。米株や日本株、ドル円市場で利益が出ていたなら、利益を確定させキャッシュ化し、損失の穴埋めにする、というような他市場への波及が懸念されますが、同様に原油価格の下落によるジャンク債市場の下落でヘッジファンドの閉鎖のニュースなども出てきたことで、市場はリスク回避ムードが強まってきました。ランド安がドル円の下落を誘因している可能性は否定できません。今週は16日のFOMCというビックイベントもあることから、新規でポジションを取ることは控えておいた方がよさそうです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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