マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
2015年のドル円相場の最安値(円高)は1月16日の115.82円。最高値は6月5日の125.86円(12月28日時点)。8月のチャイナショック時にはわずか4営業日で124円台から116円台へと7円余りもの急落となり、それなりにボラティリティの大きかった1年という印象ですが、冷静にみれば年間の高値安値の変動幅はわずか10.1円。これは1970年以降のドル円相場を見ても最も狭い変動幅でしたが、年間の最安値と最高値を1年の前半の6か月間で示現、年後半のドル円相場は年前半の高値安値の間を行ったり来たり。おおむね120円前後で安定して推移した1年となりました。
アメリカの利上げが焦点となる中、日本は量的緩和政策を継続しています。2015年は追加緩和の発表はありませんでしたが、追加緩和への期待は根強く残り日米の金融政策のベクトルが逆であることから、ドル円相場は128円~130円へと円安ドル高となるという予想が大勢でしたが、予想されたほどのドル高にはならずに1年が過ぎようとしています。2015年12月、米国は9年半ぶりに利上げすることを発表しました。FOMCメンバーの予想では2016年は4回の利上げによって2016年末には1.375%まで金利が上昇すると見込まれています。しかしながらこの発表があったFOMC以降もドル高が加速するということはありませんでした。なぜ2015年、市場関係者が予想したようなドル高進行とはならなかったのでしょうか。
①想定しなかった原油安進行による貿易赤字縮小
2011年3月に発生した東日本大震災以降、国内全ての原発が停止。代替エネルギーとして液化天然ガス(LNG)を輸入することで日本は45年間続いた貿易黒字国から貿易赤字国に転換してしまいました。海外から輸入する製品や原材料などの代金をドルで支払う額が、輸出で海外から受け取るドルの代金よりも増えるということは、ドル円相場での膨大なドル買い圧力となります。これが2011年以降のドル円相場の円安を招きました。しかし2014年秋口からの原油価格の下落により、輸入コストが大幅に縮小に転じ、貿易赤字は2015年にはトントンにまで改善。2014年の貿易収支は12.78兆円の赤字だったものが2016年上半期貿易赤字額はわずか1.3兆円の赤字にまで縮小、ドル買い円売り圧力は10分の1にまで圧縮されたことになります。
②原油安による世界経済への影響(テールリスク警戒)
アメリカのシェールガス関連などのエネルギー企業などが発行する社債は、リスクが大きいことから利回りも高いためハイ・イールド債と呼ばれていますが、原油価格の下落によって資金繰りに窮する企業が出てきています。クレジット市場では、ハイ・イールドファンドの償還凍結やポートフォリオ精算のニュースが出始めています。ジャンク債を保証するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は上昇し始めており、リーマンショック時にも、サブプライムローン関連の損失でCDSが急騰した経緯があったことから、リスクを回避する動きが広がり始めたことで、長期にドルを買って円を売るポジションを積み上げてきた向きが、リスクポジションをキャッシュ化する動きが出ることで円高傾向になってきているという指摘も。
③日銀量的緩和への期待は失望へ
12月18日、日銀は金融政策をより円滑に行うために、「補完政策」を発表。要するに、将来の金融緩和に備えて技術的な準備をしたということであり、金融緩和ではありませんが、2015年を通じて「バズーカ第3弾」が期待されながらも緩和に踏み切らなかった日銀に手詰まり感があるといった見方も出始め、金融政策相場の終焉をリスクとみる円高が始まっているとの解説があるようです。
④実質実効為替レートでは十分に円安(125円に横たわる黒田ライン)
黒田日銀総裁は6月10日、「実質実効為替レートでは、かなり円安の水準になっている。ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない」と発言。それ以降ドル円相場は6月5日につけた125.86円を超えられずにいます。この水準が黒田ラインとして意識され、ドル円相場上昇の限界点であるとみる向きも。そうであるならば、ドル円相場の長期的な上昇はこの6月時点で終焉したとみることもできますね。
さて、ここからのドル円相場は、さらなる円安ドル高が進行するのでしょうか。それともドル高のトレンドは終焉、2016年は円高転換となってしまうのでしょうか。
専門家らの見通しは、130円方向へのドル高円安予想と、110円方向への円高転換予想とに見事に分かれている印象です。年末にかけてはこの先は円高となるという予想が増えてきたように見えます。次回新年初回のコラムでは、ドル高論の根拠と円高論の根拠を整理し、2016年のドル円相場を展望してみようと思います。本年も本コラムをお読みいただきありがとうございました。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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