第67回 「アナログレコード」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第67回 「アナログレコード」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、あけましておめでとうございます。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。お正月はいかが過ごされましたでしょうか。2016年も遂に幕が開けました。気持ちも新たに、日々を充実させていきましょう。今年もよろしくお願いいたします。さて、2015年の日本の株式市場は4年連続の陽線となりましたが、足かけ6年上昇相場が続いていた米国市場では長い下ひげをつけての陰線となりました。「長い下ひげは買いサイン」という経験則も確かにあるのですが、これは株価が下落基調にある時、という条件がつきます。むしろ上昇相場での下ひげは要注意と見るべきでしょう。既に指摘され始めていますが、株式市場は世界景気の行方を決して楽観していないように思われます。

本日は2016年の大発会。本年最初のテーマとして「アナログレコード」を取り上げてみましょう。これには深い意味はなく、単に筆者がこの休み期間中に昔のアナログレコードの整理を行ったことで、ふと思い立ったため、です(笑)。そのレコード。CDしか知らない若い世代にはあまり馴染みがないかもしれませんが、一定の年齢層から上の世代では違和感のない言葉でしょう。懐かしい話ですが、昔はアナログレコードのレンタルショップがあり、そこでレコードを借りて自身のカセットテープに録音して返却する、というのが日常でさえありました。今や一般的には、こういったアナログレコードは絶滅危惧品種であり、「まだそんなものがあるのか」というのが率直な印象かもしれません。しかし、実は徐々に復権してきているのです。

日本レコード協会によると、アナログレコードの生産枚数は2009年に10.2万枚でボトムをつけた後、増加基調に転じ、2012年には45万枚まで急拡大。2015年は一気に60万枚突破という状況にあります。2009年との比較では、実に6倍に市場は回復してきているのです。デジタル全盛の時代において、この傾向はサプライズとさえ思えます。CDアルバムの生産が減少基調にあることを考えれば(現在はピークであった1999年比60%減の状況)、その変化が如何に特殊であるかが想像いただけるでしょう。もっとも、レコードの最盛期はLPだけで年間9,000万枚を生産していましたので、それとは比較にならない水準であることには変わりありませんが。ちなみに、欧米でも同様にアナログレコードに回復の傾向が見られるようです。

では、何故またアナログレコードが盛り返してきているのでしょうか。温かみのある音質への再注目、インテリアにもなるジャケットなどアート性への再評価、曲単位でのダウンロードが中心となる中で「アルバム」として楽しむ層の出現、などを指摘する声もありますが、確たる理由はよくわかっていません。ただ、どうやら盛り返しの牽引役はアナログに馴染みのない若い世代が担っているようです。そう考えると、若い世代はむしろ新しいものとしてアナログレコードを認めてきているのだと思われるのです。

このことは、レコードの購買層が性能を最重要視していない可能性を示しています。性能という点では、音質のクリアさや聞く際の利便性において、レコードはCDに敵いません。にもかかわらず、レコードが盛り返しているのは、購買層がその性能差以上の価値・意義をアナログレコードに見出しているということになるはずです。換言すると、単なる性能や機能の比較のみで商品を選択しない層が増えてきている、ということなのかもしれません。実は、あらゆる製品で性能が飛躍的に向上したため、普段使ううえで性能差が致命的になる局面は今やほとんどなくなっています。性能差が商品の優劣を決定づける要素でなくなってきたという言い方もできるでしょう。もちろん、それでもさらなる高性能を追求する消費者は存在するのですが、一方、レコード購買層のように性能は程々で十分としたうえで、それ以外の価値観で消費に臨む向きが増えてきているように思えるのです。この仮説が正しいとすると、消費材の売れ筋に対する考え方は今後変化してくる可能性があるのではないか、と予想できないでしょうか。

株式投資を考えるうえでは、アナログレコードに直接関連する銘柄は決して多くありません。が、上記の仮説を前提とすると、「最新でもなく、便利でもないが、他にない個性があって長く支持される」ような商品やサービスは、アナログレコードのように今後、復活・復権してくる可能性は十分あるのではと考えます。そうなれば、現在はあまり注目されていない銘柄が、投資対象として一躍脚光を浴びるような機会も出てくるはずです。皆さんも、実は「かなり気に入っているが、もう時代遅れだ」と思い込んでいるモノはありませんか。そういったところに、投資のヒントがあるのかもしれません。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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