第192回 円は安全資産なのか?!リスク回避時に円高となるワケ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第192回 円は安全資産なのか?!リスク回避時に円高となるワケ 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

年明けからの波乱の金融相場で、ドル/円相場は120円台から116円台へと下落しています。一般的に「安全資産としての円が買われている」と解説されていますが、先週末、神戸で開催された「マネックス全国投資セミナー」のパネルディスカッションQ&Aセッションにて、ご参加いただいたお客様からこのような質問がありました。
「リスクオフムードが高まると「安全資産として円が買われている」と言う表現がよく使われます。日本は今後、少子高齢化と働き手の減少が進むと考えられているため、衰退とは行かないまでも成長自体が鈍化傾向にあると思います。さらに、格付け会社による国債の格下げもあり、このような状況下で円が安全資産と考えられる根拠は何でしょうか。」

この質問に対して、マネックス証券代表取締役会長CEO松本大氏とチーフ・ストラテジスト広木隆氏の回答が大変分かりやすかったのでご紹介いたします。


【円の高い流動性】

流動性が低い市場では、ストップロス注文を置いていても約定しないことがあります。1月11日(月)早朝、ランド円相場は週末のNYの終値から窓を開けての急落となりました。この窓(値段がつかなかった)にあたるところに置いていた注文は約定できないため、ストップロス値を大きくはずれた値で約定してしまい、思わぬ損失を被ることとなってしまいます。事前に資産のリスクコントロールをしていたつもりでも、コントロール不能となってしまうということですが、これが「流動性の低い市場」であることのリスクです。取引に参加しているプレーヤーが少なく、注文に厚みがないために、リスクが拡大した際に、一方的な売り仕掛けが出れば、買い方が少ない(買い注文が少ない)ためとんでもない値段まで注文が出会わないということが起こるのです。

金融市場のさまざまなリスクが生じた場合、こうした流動性が低い(市場参加者が少ない)市場からは資金流出が加速します。一刻も早くリスク資産を処分しないと、値段がつかないというようなリスクに直面する可能性があるためです。リスクコントロールが困難な通貨からは、資金が流出し下落が加速するということですね。

対して、円の流動性は高く、値段がつかないというようなリスクは極めて低い通貨です。最も流動性が高いのは、基軸通貨である米ドルですが、米ドル、ユーロ、円などの通貨はその流動性の高さから、どのような局面でも約定(手仕舞い、決済)ができるという安心感があります。これが、リスクが高まった時に選ばれる一つの理由で「有事のドル高」と言われてリスクが高い時にドルが買われるのも同様の理由ですね。ただし、ドル/円相場という共に流動性の高い通貨同士のペアでは、円の方が選ばれるというのは、もう一つの理由によるのかもしれません。


【日本は世界一の対外純資産国である】

平成26年末現在本邦対外資産負債残高
(財務省HP http://www.mof.go.jp/international_policy/reference/iip/2014.htm)
を確認すると、日本の対外資産合計945兆円に対し負債合計が578兆円。差し引きで算出される純資産合計が366兆円にも上ることが確認できます。資産というのは、海外に対して色々な形で貸し付けているもので、負債は海外から色々な形で借り受けているもの。26年まで4年続けて増加しており24年連続で世界1位です。対外純資産の増加は、足元の円安の影響も大きいのですが(外貨で保有していた資産の円の換算額が膨らむ)国内企業による海外企業へのM&Aなどの直接投資も増えており、25年と比較して26年はこのM&Aによる増加額は12兆7,680億円にも上ります。それ以外にも企業や投資家が運用目的で海外の株式や債券を買う証券投資は、円安要因を除いて12兆1,220億円も増えているのです。

市場がリスク回避姿勢を強めると「保有資産のレパトリ(本国還流)」が引き起こされます。現在はオイルマネーが原油安からの財政赤字補てんのために世界に投資していた資金を引き上げていると指摘されていますが、日本の対外純資産においても同様の連想が起こると考えられます。つまり、対外純資産が大きい日本が外貨建て資産の売却を行い、自国に戻すということは自国通貨買い、円高となるのではないか、という思惑に繋がるというわけで、これが、米ドルよりも円が選ばれる背景にあるものと考えられます。

※本邦対外資産負債残高は年末残高を翌年5月末までに対外公表されるため平成27年末の対外純資産高はまだ数字が発表されていません。

※通貨ペア流動性のデータは、国際決済銀行(BIS)が3年ごとにレポートを発表しています。以下は2013年通貨ペア流動性ランキング

EUR/USD(ユーロ/ドル):約24.1%
USD/JPY(ドル/円):約18.3%
GBP/USD(ポンド/ドル):約8.8%
AUD/USD(豪ドル/米ドル):約6.8%
参照(page 11,table 3):http://www.bis.org/publ/rpfx13fx.pdf


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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