第147回 転職のシーズンを迎えるも状況は厳しさを増す 【北京駐在員事務所から】

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第147回 転職のシーズンを迎えるも状況は厳しさを増す 【北京駐在員事務所から】

中国では、転職を希望する人の多くが、春節(旧正月)後、新年から新しい職場で働きたいと考えるため、春節後が転職のピークになっています。
特に、工場労働者や小売、飲食等のサービス業に従事する人々は、春節の帰省時に、親族や友人と就業機会や待遇についての情報交換を行い、良い話があれば躊躇なく転職するそうで、工場や商店、飲食店では、春節休みの後に従業員が職場に戻ってくるか否かが重大問題となっています。

賃金の上昇で製造業の国外(東南アジア等)への移転の動きが強まっており、また経済の減速で雇用創出力も弱まっている中、中国では素材、エネルギー関連の業種で、収益力を失い死に体となっている国有企業、いわゆる「ゾンビ企業」の淘汰が待った無しの課題となっており、これらの企業で今後多数の離職者が発生し、労働市場に悪影響をもたらすとの見方が広がっています。

投資銀行の推計では、石炭、鉄鋼、アルミ、セメント及びガラスの5業種で、生産能力の30%程度の削減が必要で、今後1~2年の間に約300万人の労働者が解雇される見通しとなっています。うち100万人程度は再就職先の確保が困難となり、現在5%程度で推移している失業率を0.3%ほど押し上げると見ています。
意欲と能力がある労働者にとっては、労働市場の需給バランスが悪化する前、来月の春節後が転職のチャンスになるのかもしれません。

ゾンビ企業の淘汰は、そのプロセス、方法次第では失業率の上昇に加え、債権者、金融機関の信用不安を引き起こす等、重大な副作用をもたらします。
習近平政権は、そのような副作用を抑えるため、ゾンビ企業を抱える地方政府に、破産、清算等を極力避け、複数社の合併統合等軟着陸を図るよう求めているとのことで、あわせて失業者対策等に充てるための補助金も用意しているそうです。
減速する経済への影響を抑えつつ、過剰な設備、生産能力の削減を図ることが出来るか、中央及び地方政府の対応が注目されます。

ホワイトカラーに目を転じても、ここ数年、雇用の受け皿として機能していたIT産業の成長力に陰りが見られ、一部ではリストラの動きもあることから、転職を目指す人々が限られた求人に殺到しています。
就職情報サイト「招聘.com」の集計によると、一人の求人に対する応募倍率は、昨年1~3月期が平均26.1倍、4~6月期が29.3倍であったところ、7~9月は35.4倍に、さらに10~12月期には36.8倍に上昇しています。
多くの業種でリストラが広がり、職を求めざるを得ない人々が増えていることが、倍率の上昇につながっています。
招聘社によると、各省の省都クラスに当たる「二級都市」で倍率の上昇が目立つとのことで、北京、上海など大都市の生活費高騰あるいは住宅難が、二級都市で就業を目指す人の増加をもたらしているものと思われます。
それにしても、応募倍率が30倍以上ということですので、能力、職務経験で余程抜きんでるか、あるいは差別化が図られない限り、競争を勝ち抜くことは困難と思われます。人口世界一の中国ならではの光景とも言えましょうか。

中国では、政府機関や一部の国有企業、外資系企業など、待遇や福利厚生に優れた職場を例外として、転職が極めて活発で、労働市場の流動性が高くなっています。
また、求人条件等について、同僚や友人と情報交換をすることも一般的で、それら人脈を頼りに転職することも多いそうです。
需給や条件、処遇に変動があることはやむを得ないところですが、多くの人々が満足できる職を得て、仕事に邁進できるよう望みたく思います。


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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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