第69回 「民泊」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第69回 「民泊」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。1月の株式市場は世界的に全くもって酷い状況でした。国内では19営業日あったうち、日経平均が上昇して引けたのはわずか6日。最後の最後にマイナス金利導入という劇薬投入で急上昇となりましたが、日経平均が数百円も乱高下する非常に不安定な相場展開となっています。順張り志向の方はちょっと手が出難い状況にあるうえ、エントリーのタイミングを見計らっているところであろう逆張り志向の方も、これだけボラティリティが大きいと、なかなかそのタイミングが掴みきれないのが実情のように感じています。なかなか仕掛け難い状況ですが、「人の行く裏に道あり花の山」。市場のセンチメントに振り回されることなく、足元を固めて信じる投資スタイルを貫きましょう。

さて、今回は「民泊」をテーマに採り上げてみたいと思います。あまりに旬なテーマではあるのですが、まだ黎明期にあるとの認識で一度議論をしてみたいと考えました。まずは、民泊について事実関係をまとめておきましょう。民泊と一般に認識されているものは、個人(オーナー)が所有する空き家・空き部屋を旅行者などが利用するスキームと言ってよいでしょう。利用者はその使用料をオーナーに支払うのですが、オーナーは遊休資産の有効活用が図られ、利用者はホテルなどよりも安価で宿泊できる、という双方にメリットがある、という建て付けとなっています。さらにマクロ要因として、日本ではオリンピックに向けて訪日旅行者数のさらなる増加が予測されており、その宿泊所確保もまた喫緊の課題となっていました。大きなホテルの建設には時間もコストもかかるうえ、オリンピック終了後には余剰設備となるリスクもあります。一方、国内では空き家問題の深刻化も否めません。民泊はこれらを同時に解消する有効な手段になり得るとの期待もあります。ここもと民泊への注目度が急速に増してきているのは、こういった背景があるためです。

ただし、同時に懸念も指摘されています。第一には、旅館法との関係です。営業行為として継続的になされた場合、それはもはや民泊の概念を越えてしまうという可能性があります(つまり、民宿であり、旅館ではないか、という疑問)。現在は特区対応や「営業行為はない」(マッチングサイトへの掲載程度であれば、それは継続的な営業行為とは言い難いという判断)などということでとりあえず走っている感はありますが、ビジネスとして拡大していくにはどこかでこれらの理論付けが整理整頓されていくはずでしょう。その結果、それなりの規制が発生し、現在認知されている民泊とは少し違ったものになっていくのではないか、と想像します。第二に、利用者の問題です。利用者は善良な方のみではありません。民泊拠点の破損や好ましくない目的での利用といった事態が発生する懸念があるでしょう。現状ではオーナーがその責任を負うことになる公算は大きく、そうなれば、民泊収入が吹き飛ぶほどのリスクを抱えることにもなりかねません。第三には、周辺住民への影響です。既にマンションなどでは管理組合によって「民泊禁止」を謳うところも出てきています。不特定の利用者が出入りする状況は、特にマンションでは治安上問題となってしまうためです。例えば、オートロックマンションが民泊に使われてしまうと、オートロックの意味がなくなってしまう、ということでしょう。こういった懸念材料を考えると、以前にドローンをテーマに取り上げた際にも言及しましたが、現在は民泊もまだまだ黎明期であり、これからどういう方向に現実が転んでいくかの予見は容易ではない、ということとなります。

とはいえ、早くも幾つかの企業は民泊ビジネスに名乗りを上げつつあります(民泊ビジネスという言葉自体が矛盾を孕んでいる感は否めませんが・・・)。前述の通り、ミクロ的にもマクロ的にもメリットが期待できる仕組みです。欧米で浸透しているという事実も踏まえ、将来性大との判断にあるものと推定します。まだ懸念材料がある中、企業が先走っていると捉える方もおられるかもしれませんが、法整備を待たずビジネスがどんどん先に進んでいくことは多々あります。このこと自体は自然な流れであり、むしろそれだけ自由な発想が生まれている健全な状況であるという証とさえ言えるでしょう。そして実際にはそういった中でより現実的なルールが自ずと形成され、それが法整備の基本となっていく流れとなるはずです。産業としての本格的な飛躍はそれから加速する公算は大きいと考えます。

当然、株式投資を考えるうえでも、こういった視点は無視できません。市場はどんどん将来の期待値を織り込んでいきますから、法整備が整った時点では既に遅いと懸念される方もおられるかもしれません。しかし、ゲームはルールが決まってからが本当の勝負です。先行企業には当然それだけのメリットはあるでしょうが、規制の動向など、民泊を取り巻く環境は現時点の期待値で帰趨が決まってしまうほど単純なものではないように感じています。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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