マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
1月29日日銀バズーカ3と称された「マイナス金利政策の導入」ですが、株やドル/円相場の上昇が続かず、その効果が3営業日ほどしか持たなかったことでバズーカと称する声も小さくなってしまいました。政策を「質・量」から「金利」に大きく方向転換した日銀ですが、マイナス金利導入によって日本の金利は引き下げられる方向にあり、対して米国は12月に利上げを実施し今後も利上げのバイアスにある(怪しくなってきましたが)とするなら、日米金利差拡大でドル買い円売りが進むはずですが、ドル/円相場の上昇が続かず、円高となってしまっています。
その背景にあるのがマイナス金利導入で、本邦金融機関は運用収益を上げるのが難しくなる、ということ。2月5日、日本国債10年物の利回りは0.02%まで低下、10年より短期の国債利回りはすべからくマイナスに沈んでいます。長期運用の債券の方がリスクが高いことから、基本的に長期債の利回りは高いのですが、現在、短期債はマイナスに沈み、長期債の利回りも低下していることで、利回り格差がなくなってしまっています。これを「イールドカーブのフラット化」と呼びます。ここまでは日銀の狙い通り。債券運用をあきらめて貸し出しに回すなどして資金を動かす必要性に迫られるということですね。しかし、現実には企業には内部留保が潤沢にあり資金ニーズがないのが実情です。
では今後どのようにして銀行は運用収益を上げればいいのでしょう?!
本邦機関投資家は比較的利回りの高い安全な投資先を求めて動き出しました。12月に政策金利の引き上げに踏み切ったばかりの米国債の利回りは1.8%台(決して高金利というわけではありませんが)、0.02%である日本国債よりは利回りに妙味があります。しかしながら米国債利回りは足元で見る見る下降しています。安全な運用先を確保しようと本邦機関投資家が米国債購入に殺到しているのではないか、という指摘が一部にあるようですが、米国債利回りが低下していくと「日米金利差」が縮小してしまいますので、ドル買い妙味が低下してしまうのです。ドル/円上昇の材料のひとつに日米金利差の拡大がありますが、米国は12月に利上げに踏み切ったものの、足元では継続利上げに懐疑的なムードが広がっており、3月の利上げの折り込み度はかなり低下しています。このことも金利上昇を阻んでしまっており、足元で大きくドル安が進んでしまっているのです。
本邦機関投資家が米国債を購入するなら、ドル買い需要が起こるのではないか?だからドル高にならないとおかしい、という指摘もあるかと思います。確かに米国債はドル建てですので、円をドルに換えて米国債を買うならドル高になるはずです。金融政策やマーケットの地合いがドル高円安方向にあるというなら、ドルを買って米国債を買っても為替リスクは無視できます。しかし、日本株が急落し円高の地合いにある中で、ドル買いをし米国債を買う場合、ドルが下落するという為替リスクが気になりますね。この場合、機関投資家らは米ドルを購入すると同時に為替市場では同量、あるいはその倍の円買いドル売りをして、為替リスクをなくすというヘッジを行うこともあります。現在どのようなことが起こっているのか正確にはわからないのですが、もう一つ、米国債を購入する際、必ずしも機関投資家らは為替市場でドル買いするというわけではありません。ドルを借りてきて米国債を買うこともあります。この場合も為替市場でのドル買いは起こりません。そのため必ずしも本邦勢の外債投資で円安になるというわけではないのです。
マイナス金利の効果については賛否分かれており、現実マーケットではその衝撃からの上昇分はすべて剥落していることから弱気が大勢となっている印象です。銀行株の下落などの副作用も多いのが事実ですが、日銀にはまだ「マイナス金利拡大」や「追加の量的緩和」(限界が近いにしても)は残されており、副作用ばかりを取り上げて悲観に暮れることはないと思うのですが、外部環境が悪すぎます。このコラム執筆中も、ドイツ銀行のCDS急騰をきっかけにした世界同時株安の様相を呈し始めており、リスク回避相場が沈静化する気配が見られません。ドル/円相場は115円を明確に割り込んだらさらなる下落リスクが高まりますので、値頃感で買い向かうことのないように。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
TwitterAccount
@hirokoFR
マネックスからのご留意事項
「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。