マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国では、本年より一人っ子政策が廃止され、全ての夫婦に第二子を儲けることが認められました。
急速に進む高齢化と将来の労働力不足への対応のための政策変更ですが、中国でも日本と同様、特に大都市では生活費や教育費の負担が重く、今回の制度変更後も、出生数はなかなか増えないのではないかと懸念されています。
そのような大都市の一つである上海では、市政府が第二子の出産を後押しするための様々な施策を検討していると報じられています。
上海市は、中国でも特に高齢化が進んでおり、人口に占める高齢者(60歳以上)の割合は30%近くに達しています。2020年にはこれが35%にまで上昇すると見られています。
2014年末時点で、中国全体での高齢者の割合が15.5%でしたので、上海市の高齢化がいかに進んでいるか、お分かりいただけると思います。
また、上海市の出生率は0.7人程度で、世界全体で見ても最も低い水準となっています。
中国の一人っ子政策は、今回の全面廃止までの間、段階的に緩和され、廃止の直前には、例えば両親のいずれかが一人っ子の場合、第二子の出産が認められていました。しかしながら、昨年上海市では、第二子が認められる夫婦のうち、実際に儲けた夫婦は5%に満たなかったそうです。
研究機関が行ったアンケート調査によると、第二子をためらうことの主な理由として、育児、教育の経済的な負担、母親の仕事・キャリアに対する悪影響、ならびに育児を頼める人あるいは施設の不足が挙げられていました。
上海市政府は、より多くの夫婦がこれらの障害を克服できるよう、所得税の課税対象を個人単位から家族単位にする(子供が多くなると税負担が軽減される)こと、子供二人を持つ夫婦への手当の支給、出産や育児休業の期間の延長と父親への適用、ならびに保育所の増設を検討しています。
市政府に対し助言を行っている専門家は、子供二人を持つ夫婦への経済的な支援の拡充が必要で、様々な手当、補助金を設け、子育てを支えていくべきと指摘しています。
また、別の専門家は、保育所の不足が深刻なことが、低い出生率につながっているとしています。上海市での年間の出生数は25万人程度ですが、1歳半から3歳の幼児を受け入れている保育所は40ヶ所程度に止まっており、定員は6,000人に過ぎないそうです。
共稼ぎが普通の中国では、育児休暇明け後に子供の世話をどのようにするかは深刻な問題です。祖父母を頼る人も多いのですが、それが難しい場合、日本以上の保育所難に直面することになります。
上海市政府は、市民に対し、育児休暇の期間をどの程度とすべきかについて、市民に対する意見募集を行っています。
日本でも同様ですが、子供のためには長い方が良い半面、父母の仕事やキャリア形成を考えると、自ずと限界も見えてきます。より多くの夫婦が、第二子を儲け、仕事と育児との両立が図れるよう、改善が望まれます。
一人っ子政策の廃止直後に、第二子の奨励ですので、夫婦の生活設計、人生設計に与える影響は甚大です。また、激変を避けたいとの考えなのでしょうが、未だに「第三子は×」なのですから、なお国家による統制色が強いことが理解できます。
国家のコントロールで、「産めよ増やせよ」が実現するかは大いに疑問ですが、より多くの夫婦が、自らの望む家族構成を実現できるよう、諸施策が効果を上げることを願いたく思います。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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