第70回 「マイナス金利」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第70回 「マイナス金利」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。2月に入っても株式市場の波乱は続いています。先月末の電撃的なマイナス金利導入政策も虚しく、日経平均は一時、15,500円を割り込み、2014年秋以来の低水準に沈むこととなりました。まさに「落ちるナイフ」状態であり、投資家の多くは塩漬けを覚悟し、安値を拾おうとする投資家も現状ではちょっと手が出しづらいという心理状態にあるのではないでしょうか。ここは「休むも相場」と割り切ってしまう局面なのかもしれません。よく個人投資家は情報面で機関投資家に勝てないとされますが、反面、この「休む」ことができるのは個人投資家の強みなのですから。

さて、今回は「マイナス金利」をテーマに採り上げざるを得ないでしょう。ど真ん中すぎるテーマであるため、もはや食傷気味の方も少なくないかもしれませんが、しばしお付き合いください。相場は未だ大混乱中でもあり、一旦状況をまとめておくのは重要かと思うのです。なお、この事象について専門家にも種々意見があることは承知しています。本コラムはあくまで筆者個人の考え、まとめであり、そこには異論もまた多くあることをご了承ください。

先月末、劇的に導入された史上初のマイナス金利は、みなさんご存じのように、その後の株式相場の動乱のきっかけとなりました。日銀の狙いは、資金の金融機関滞留を抑制し、投資などに振り向けさせることにありました。銀行からすれば、日銀にお金を預けておけばマイナス金利によって目減りしてしまいかねません。とすれば、しっかり金利を確保できる貸出しを増やさざるを得なくなる、という目論見です。金利の低下は、円安要因になり、当然株価上昇要因でもあります。お金はリスク分野に流れていくはずでした。しかし、実際に起こったことはどうもそうなっていません。当の日本株式市場はマイナス金利導入から2日ほどは上昇しましたが、その後は暴落。先週には2014年にあった第二弾黒田緩和前の水準まで日経平均は調整してしまいました。同時に、円高も進行。目論見や金利と株価の関係からすると真逆とも言える展開です。なぜ、こんなことが起こってしまったのでしょうか。ここを把握しておかなければ、これからの株式投資戦略を立て直すことはできないと考えます。

その原因を探るうえでヒントとなるのが、国債市中金利が初めてのマイナスを記録したことです。本来は健全な投資先への資金シフト(あるいはシフト観測の台頭)が起こるはずでしたが、実際には安全資産である国債に資金がまず集中してしまったのです。むしろ過剰に。円高が進行しまっているのもこれと同じ理屈であると考えます。このことから言えるのは、かなり深刻な需要不足、ということです。つまり資金を借りたいという法人・個人が圧倒的に足りない、ということです。中国など新興国の景気減速懸念は、エコノミスト諸兄の冷静な見方とは裏腹に、市場は相当に悲観的に捉えているのでしょう。内需においても、爆発的なヒット商品不足は久しく、アベノミクスによるトリクルダウン効果も期待を超えてはいないという状況が続いています。来年に予定されている消費増税も先行不透明感を醸成していると感じています。さらには、米大統領選やテロの横行・世界各地の地政学リスクの高まりといった、政治リスクの高まりも投資意欲を削ぐ一因となっているように思えます。景気は気分ですが、世の中は決してそういった気分にはないようです。日銀のマイナス金利導入、一方で貸出先はない、という「前門の虎、後門の狼」状態となる中、資金は目先の安全資産に集中したという解釈です。マイナス金利導入は、その後の景気拡大期待へとは当面繋がらず、むしろリスクオフを一層加速させる引き金になったのだと考えます。

仮にこの理解が正しいとすれば、この「前門の虎、後門の狼」状態に風穴が開かなければ、事態の閉塞感に変化は現れない、ということになります。株式市場はどこかで落ち着いてくるとは予想しますが、かつてのような燻った状況に舞い戻ってしまうことにもなりかねません。筆者は状況をかなり深刻に憂慮しています。ただし、このことは「前門の虎、後門の狼」状態に風穴が開けば、事態は一気に転換し、株式市場にも活気が戻るはず、とも言えます。そのきっかけは現時点ではまだ何か見えてきませんが、遠からず、事態に変化は生じてくるのではないか、と考えます。先週、筆者の親しくしているアナリスト仲間がこの相場格言を引用して気を引き締めていました。「相場は楽観の中で死に、悲観の中で生まれる」。筆者もそれに続きたいと思います。


コラム執筆:長谷部 翔太郎

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