第151回 生産年齢人口の減少が経済成長の足かせに? 【北京駐在員事務所から】

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第151回 生産年齢人口の減少が経済成長の足かせに? 【北京駐在員事務所から】

昨年末まで30年以上にわたり施行された一人っ子政策の影響により、中国では年齢別の人口構成が歪になっており、少子高齢化が急速に進んでいます。
足元では、生産年齢(2012年までは15歳から59歳、2013年以降は16歳から60歳)人口の減少が加速しており、企業の生産活動や個人消費にマイナスの影響をもたらすとの懸念が広がっています。

中国政府の国家統計局によると、昨年2015年の生産年齢人口は前年比で487万人減少し、9.11億人となりました。
減少幅は過去最大で、前年2014年の371万人減少から31%拡大しています。2011年時点では、生産年齢人口は9.41億人で、全人口の69.8%を占めていましたが、昨年末にはこの割合も66.3%にまで低下しています。

長年にわたり一人っ子政策の弊害を指摘し、緩和を提唱してきた専門家は、生産年齢人口の減少により、住宅や自動車の市場縮小、製造業における革新の停滞など、経済、社会の様々な側面に影響が生じると述べています。
また、別の専門家は、生産年齢人口の減少が経済成長の鈍化をもたらすとし、昨年6.9%となった中国のGDP成長率が、2020年までには6.2%程度に低下するとの見通しを示しています。

中国では、日本が歩んできた道のりと同様に、輸出から内需への経済構造の転換と、第三次産業の強化、生産性向上を目指しているのですが、農村の余剰労働力を農民工(出稼ぎ労働者)として製造業が吸収してきたように、今後第三次産業で量的、質的に十分な労働力を確保できるかは大きな課題と言えます。
労働力の不足が、賃金の上昇にうまくつながれば、個人消費の拡大も期待できるところですが、既に軽工業の分野で顕在化しているように、賃金上昇を嫌って生産拠点を東南アジア等海外に移す動きが広がれば、成長の一段の鈍化と消費の停滞という負のスパイラルに陥りかねません。

また、中国では貧富の差が大きく、これまでは貧困層も経済成長の恩恵にあずかる形でそれなりに生活水準の向上を実感できていましたが、仮に将来、成長が鈍化し、生活の改善が頭打ちとなった場合に、富裕層との差について不満が爆発することも懸念されます。
習近平政権は貧困層の底上げを重要な政策課題としていますが、そのためにも、また政権と社会の安定のためにも、経済成長を持続させなければならない宿命を負っています。
今後も続く生産年齢人口の減少と、遠からず始まる総人口の減少に、政府がどのように対処するのか、注目されます。

様々な面で日本の後を追っている中国ですが、人口構成の変化の速さは日本を追い抜く勢いです。
少子高齢化への対応など、日本にとっても参考に、あるいは反面教師となることが今後いろいろ見られるかもしれません。
日中両国が置かれている状況は全く同じという訳ではありませんが、互いに学び、また知恵を絞ることで、問題の解決につなげられるよう、願いたいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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