マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
3月に入りました。3月期末は年度末本決算となるため3月末の株価や為替レートは決算評価に多大な影響を及ぼします。日本の主力企業には輸出企業が多いため、為替レートの変動は企業業績や株価に与える影響が大きいのですが、2016年1月からの金融市場の混乱で昨年12月末のドル/円相場120円から比較するとかなりの円高ドル安が進行しています。2月11日には110円台までドル/円相場は下落する局面がありました。
気がかりなのは、輸出企業が「想定為替レート」をどの水準に設定しているかです。想定為替レートとは、企業が事業計画を立てたり業績の見通しを検討する際に、事前に基準値として決めておく外国為替相場のレートのことです。輸出企業は、輸出した先の外貨ベースでの売上を最終的には日本円で評価しますので、想定為替レートよりも円安が進んでいれば、利益のかさ上げ効果が見込めますが、想定為替レートよりも円高が進んでいれば収益は悪化、評価減が生じてしまいます。
例えば、海外で10ドルの売上があったとしましょう。1ドル=100円の時は、日本円で1,000円で評価されますが、1ドル=110円に円安ドル高が進んでいれば1,100円となります。逆に1ドル=90円に円高が進むと、900円になってしまいますね。売上の量とは関係なしに、「為替レートが異なる」だけで利益が増減するのです。トヨタ自動車などは、1円為替が上下することで、350~400億円もの収益の増減につながると指摘されていますが、このような為替変動を背景にした収益の増減が企業の株価にも大きな影響を及ぼすため、円安の進行は輸出企業の株価上昇要因の一つとなっているのです。
アベノミクスが始まった2012年10~12月期以降、実勢相場が想定レートを上回る円高になったことはありませんでしたが、この3月は企業の想定レートを上回る円高での本決算を迎えることになる可能性が出てきたとして市場が神経質になっています。
12月日銀短観によると、2015年度の企業の想定為替レートは、大企業・製造業1,091社の平均で119.40円でした。2015年4月1日発表の3月日銀短観で111.81円だった想定レートは、6月短観で115.62円、9月短観で117.39円、そして12月に119.40円と切り上がってきました。企業は期初の想定為替レートを保守的に設定し、徐々に実勢相場に寄せていくことで収益計画を上方修正するパターンが多いのですが、実勢為替レートの上昇基調を見て、徐々に切り上げられてきたのです。
本決算ともなると、ドレッシング買い(お化粧買い)と言って、企業や投資信託などファンド勢や年金基金などが決算の内容をよく見せるために買いを入れて相場を押し上げることがあります。株価を上げる事で評価額を高める狙いがあるとして、3月末にかけては株価が上がりやすいというカレンダー的な上昇要因もあり、株価が上昇することでドル/円相場も上昇する期待もあるのですが、市場関係者の間で指摘されていた「黒田防衛ライン」と呼ばれる重要な節目である1ドル115円を割り込んで大きく円高進行となったために、この115円が今度はレジスタンスライン(抵抗ライン)となってしまい、ドル/円相場の上昇を阻む可能性が強いという見方も。115円を超えて上昇できないなら、テクニカル的には再度下落した際に105~106円までの円高進行となるという見通しも広がりつつあり、3月末時点で為替水準がどのレベルに落ち着くのか、不安の大きな相場となっています。今週10日にはECB理事会が開催され、欧州の追加緩和策の中身が材料となってユーロが動意づく可能性が高いことで、ドルも大きく動くことになるでしょう。そして、3月15日には日銀の金融政策決定会合。1月29日のマイナス金利導入で円高が進んだことに対して、どのようなアナウンスメントがあるでしょうか。16日は米国FOMCで利上げが実施されるか否かでドルが大きく動くと思われます。3月月中は日欧米の金融政策が目白押しとなるため、月末の水準を予想するのは大変困難ですが、想定為替レートに限りなく近づけたいという本邦勢の思惑に向けてドル/円相場が115円の節目を超えられるかどうかに注目です。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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