マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
春節(旧正月)の連休が明け、一ヶ月が過ぎました。
中国では、新しい年に心機一転ということで、春節後に転職を希望する人が多く、労働市場の動きが最も活発になります。
ところが、今年は昨年末に一人っ子政策が廃止されたことにより、新たな職を求める女性たちが就職難に直面していると伝えられています。
中部内陸部の重慶市に住む29歳の女性は、第一子の出産を機に仕事を辞め、現在再就職を目指しています。
就職フェア等のイベントに参加し、情報収集と面接を重ねていますが、企業側が「第二子の出産予定の有無」を気にしていることを痛感しています。
面接の都度、予定の有無を尋ねられるそうで、彼女は第二子を出産した後の方が、容易に職を得られるのではないかと考え始めています。
一人っ子政策が昨年末を以って廃止され、既婚女性のうち出産可能年齢にある約2億7,000万人が、仕事と家庭の両立あるいは選択の難しい判断を迫られています。
企業側も、より多くの女性従業員が、出産及び育児休業(正常出産の場合で7~8ヶ月)を取得するようになることを心配しています。
求人広告サイトの運営会社が、就業中の女性に、第二子を儲けることにより生じる問題についてアンケート調査を行ったところ、回答者の76%が経済的な負担を、71%が仕事と家庭の両立の難しさを挙げていました。
さらに、回答者の56%が、第二子の出産が自身のキャリア形成の阻害要因になると指摘しており、社会科学者などが「一人っ子政策の廃止後も、出生数は大きくは増加しない」との見通しを示していることと符合します。
同じく重慶市に住む23歳の女性は、自身のキャリア形成や生活に悪影響が生じるのであれば、第二子を儲けることは控えると述べています。これが都市部で仕事を持つ多くの女性たちの考えなのでしょう。
人材紹介サイト運営会社の専門家は、経済成長の減速で利益率の低下に悩む企業は、採用後の従業員の貢献度(出産、育児休業を取得しないことを含めて)を意識せざるを得ず、結果的に女性が差別を受けていると指摘しています。
特に、出張や残業が多い業務あるいは職位に就く場合、どうしても男性の方が好まれるとも述べています。
同専門家は、中国の女性は男性よりも家庭に対し重い責任を負っているとし、出産から3年ないし5年程度は、仕事への完全な復帰は果たせていない状況と指摘しています。一方で、企業、特に設立からの期間が短く、急速に拡大している企業などに、採用時に完全な公平性(平等性)を求めることも現実的でないとし、結果的に男性に有利な状況となっていることも、労働市場における選択がもたらしたものであると述べています。
日本でも、4月新年度を控え、保育園への入園の可否が決まる時期となり、育児と仕事の両立の問題が改めてクローズアップされていますが、中国でも状況は深刻で、かつ国家や企業が各個人あるいは家庭の家族計画に介入するという点で、特に女性にとってはより困難になっていると言えます。
大企業を中心に、従業員に第二子の出産を奨励する雇用主が少しずつ増えているとも言われており、今後そのような動きが広がることを期待したく思います。
一人っ子政策の廃止が、政府が期待する出生数の増加につながるかどうか、改めて疑問が生じる話題でした。人口政策あるいはコントロールが実現困難であることを再認識させられます。
日本でも、「希望出生率1.80」等の新たな政策目標が掲げられていますが、果たしてそれを実現するための有効な施策があるのかどうか、よくよく考えて行かねばならないと思います。
=====================================
コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
マネックスからのご留意事項
「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。