マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
中国の住宅価格は、このところ一部の大都市でのみ上昇を続け、地方都市などとの差が広がっています。
住宅購入者は、結婚などを機に新たに購入する一次取得者や、資産運用目的で複数の物件を購入する者など様々ですが、北京などの大都市では、最近、所有する住宅を売却し、より広い、あるいは高級な物件に移る買い替え需要が高まっており、高価格帯の物件の値上がりが続いていると報じられています。
北京市の東部は、以前は小規模の工場や、出稼ぎ労働者の住宅などが立ち並び、開発の遅れたエリアとなっていましたが、1990年代以降、中心部に近い地域ではオフィス、マンション、ホテルや商業施設などの複合開発が、また少し離れた地域では大規模なマンションの建設が進み、開発がより郊外へと広がっています。
この結果、住宅価格は市内でも筆頭格の水準に達し、新築で最高級水準の3LDKの物件は1,000万元(約1.7億円)で販売されているそうです。
北京のほか、上海や深圳(広東省)でも住宅価格の上昇が続いており、特に中古物件の価格は、2月の春節(旧正月)後、一ヶ月半で2割から3割上昇しています。
北京の郊外に住宅を持つ市民は、自宅近辺の新築3LDKが600万元から800万元(約1億円~1.4億円)にまで値上がりし、8年前、開発当初の価格から8倍ないし10倍になったと話しています。どう見ても異常な価格上昇と言わざるを得ません。
携帯電話には、不動産仲介業者からの、「現在の物件を売却してもっと広いところに住み替えないか?」との勧誘の電話が殺到しているそうです。
中国では、株式市場での価格変動が大きく、以前から短期間の急騰と長い低迷を繰り返してきました。また、「架空の投資話による詐欺事件」等も後を絶たず、これらがネガティブな学習効果をもたらした結果、株式等の金融商品による資産運用、資産形成という考えが人々の間に根付いていないように思われます。
一方、不動産(住宅)に関しては、政府が一時的に需要の引き締めに動くことはあったものの、ほぼ一貫して取得を後押しする政策を取り、結果として価格の上昇が続きました。
「早く購入した者ほど報われる」ことが広く知れ渡り、「資産形成は不動産で」と考える人が多くなっています。
こちらの日本人の友人の中でも、中国人と結婚し生活拠点を構える人達からは、「早く購入して良かった」あるいは「買い時を逃した」等様々な声が聞かれます。
物件価格の下落と在庫の急増が伝えられる地方都市では、政府が経済成長の原動力とするために開発を積極的に進めた結果、供給に需要が追い付かず厳しい状況となっていますが、北京などの大都市では、物件価格の上昇とともに所得も増加を続け、一次取得者と買い替え希望者の分厚い需要が市場を支える構図となっています。
各地方政府は、価格変動の状況に応じ、住宅の取得、保有あるいは売却に係る規制の強化あるいは緩和を行い、需給と価格のコントロールを図っているのですが、根底に資産形成、運用のツールとしての住宅の存在が確たるものとなっているため、「緩やかな価格上昇が是であり、かつ必達」となっていることが政策を縛っています。
このことを知った市民は、安心して、かつ先を争って購入に動きますので、価格は「緩やかに上昇」とは行かず、恒常的に上げ圧力がかかることとなります。
政策の自由度が限られるという点で、政府に同情する余地があるようにも思いますが、いずれは住宅価格が一次取得者の手の届かない水準にまで上昇し、人々の不満が爆発することが懸念されます。中国社会の大きな潜在リスクのように思えてなりません。
日本では、足元では東日本大震災からの復興需要と東京オリンピック、パラリンピック関連の建設需要で、資材と人件費の高騰が生じ、住宅価格も上昇傾向と言われています。
しかしながら、中長期的には、人口減少等の要因により、住宅は余剰となると指摘されています。
バブル崩壊以後の経験から、賃料収入はともかく、物件の値上がりに期待し住宅を購入する人はそう多くないものと思われます。中国でも、いずれは住宅価格に対する認識が変化し、「値上がりが当然ではない」との考えが広く浸透するよう、願いたいものです。
住宅市場の過熱ぶりについては、これまでもご報告して来ましたが、状況は変わっておらず、かつ、変化を許容できない根深い事情があることが再確認されたニュースでした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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