第159回 韓国旅行の人気回復策 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第159回 韓国旅行の人気回復策 【北京駐在員事務所から】

昨年2015年に日本を訪れた中国人旅行客は、前年比2倍超の499万人に達しました。
日本だけでなく、世界の多くの国で中国人旅行客が増加しており、旺盛な消費を取り込もうということで、熾烈なアピール合戦が繰り広げられています。

韓国は、日本よりもさらに中国に近いということで、昨年は598万人の中国人が訪問しました。
それでも、前年2014年からは2.3%減少したそうで、その理由の一つとして、一部のパッケージツアーが、低価格を売りとするために、劣悪な宿泊施設や、買物に連れ回すだけの旅程を組み込んだ「安かろう悪かろう」に陥っていることが挙げられています。

危機感を持った韓国政府の文化体育観光部(日本の文部科学省と観光庁に相当)は、中国人向けツアーを取扱う旅行代理店170社を調査し、うち68社に中国人向け旅行の取扱を禁止する処分を行いました。
処分を受けた代理店のほとんどは、極めて安価なツアーを販売し、旅程がショッピングに偏重している、あるいはガイドの経験、能力が乏しい等の問題を生じさせていました。
東部の山東省に住む女性は、昨年10月に、友人と4日間の旅程でソウルを訪れたところ、ホテルの部屋は不潔で、また旅行中はバスで買物に連れ回されるばかりで、観光を楽しむどころではなかったと不満を口にしています。
もっとも、ツアーの代金は1,000元弱(約17,000円)だそうですので、「安物買いの・・・」と言わざるを得ません。
中国の旅行代理店経営者は、ソウル4日間のツアーであれば、航空運賃、宿泊料金と観光施設の入場料等の合計で、価格は最低でも2,000元(約35,000円)であるべきと指摘しています。
同経営者は、以前は韓国ツアーの質は良好であったが、近年、旅行客の急増により、一部の業者が価格競争に走ったことで、急激に質の低下が進んだと話しています。

中国側の旅行業界関係者からは、今回の処置を歓迎する声が上がっており、人気が離散傾向にある韓国旅行が再評価されることが期待されています。
韓国政府は、名所観光、食事と買物という一般的なツアーに加え、ファッションや美容等、特色を打ち出したツアーを強化し、今年の中国人旅行客を800万人にまで増加させる計画です。今回の大ナタが功を奏し、計画が達成されるかどうか、注目されるところです。

私がちょうど30年前に、母と伯母を連れて香港を訪問した時のツアーは、まさに「安かろう・・・」でした。
観光名所の訪問はわずかで、漢方薬、宝飾品などの店に連れ回されるばかりでした。
確かに格安(激安?)でしたので、覚悟はしていたのですが、「次回は個人で」と強く思ったものです。
中国人の訪日ツアーでも、一部は同様の「低価格、低品質」に陥っていると言われていますが、今はSNSで旅行者の評価が瞬時に拡散する時代ですので、訪問客がリピーターとなるか、また彼らの評価が新たな訪問客を呼ぶことになるかが重要です。
韓国ツアーの人気離散は、日本にとって追い風とも言われますが、「人気は水物」です。
ちょっとしたきっかけで、一挙に「形勢逆転」となる可能性もあり、業界関係者に加え、一般市民も、「おもてなしの心」を忘れずに、中国だけでなく、外国人旅行客を歓迎したいものです。

中国人旅行客獲得競争の激しさを再確認させられたニュースでした。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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