マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週末よりの九州熊本地震では甚大な被害が発生しました。被災された方には心よりお見舞い申し上げます。また、一刻も早く平安な日々に戻られるよう、お祈り申し上げます。
さて、株式市場は依然として不安定な展開です。市場は急速に今期の企業業績(の下振れ懸念)への注目度を高めてきているように思えます。円高の進行もあり、デフレへの逆戻りリスクも俄かに高まってきたように感じています。灰汁抜けまではまだしばらく時間がかかるという印象でしょうか。当面は短期視点で、着実に利益を確定していく方針が有効なのかもしれません。
さて、今回は、「実力経営者(社長・会長)」をテーマに採り上げてみたいと思います。先月から今月にかけて、実力経営者が取り沙汰される報道が相次ぎました。よい機会と捉えて、経営者と株価というものを考えてみたいと思います。一般に、株式市場において実力経営者を擁する企業(銘柄)は人気が高い傾向にあります。これは、実力経営者の持つ強いリーダーシップが迅速な意思決定を可能にし、積極果敢な経営判断が期待されるため、に他なりません。実際、名の知れ渡った実力経営者を擁する企業の株価は、その経営手腕への信頼がプレミアムとなり、競合企業に対して高めのバリュエーションで取引されるケースも少なくありません。長いスパンでの株価パフォーマンスが同業他社を圧倒している例も多々見られます。そういった観点では経営者の実力は株価と高い相関にあるようです。
一方、その実力経営者体制の対極にある例として、合議制による集団経営体制というものがあります。実はほとんどの企業はこの合議制方式にあると言っても過言ではないでしょう。合議制集団指導体制の強みは、議論を尽くすことでリスクを洗い出し、現実的で合理的な経営決断を導くことが可能である点です。ガバナンスが効いているという言い方もできるかもしれません。当然、これはこれで素晴らしい方法であり、実力経営者方式と優劣を付けられるものでは本来ありません。にもかかわらず、株式市場においてこの方式の人気が相対的に高くないのは、次のような弊害が考えられるためです。まず、コンセンサスを得る必要があるために、経営スピードの迅速性にはどうしても限界があること。また、合議をすればするほど、先鋭的な発想や大胆な戦略は徐々に無難な結論へと修正されがちであり、結果として小さくまとまった打ち手となってしまいかねないこと。そして、合議では責任の所在が曖昧となるため、なあなあの企業風土を招きかねないこと、です。最悪の場合は、小田原評定が繰り返され、ビジネスチャンスを逸するにとどまらず、「戦力の逐次投入」という愚策中の愚策を招いてしまうケースもあります。だからこそ、株式市場は企業を大きく成長させる原動力として実力経営者を位置づけ、その推進力に注目しているように思えます。
もちろん、実力経営者方式にも弊害があります。一番予想されるのは、カリスマ経営者による暴走でしょう。カリスマといえど、打つ手打つ手が全て当たるわけではありません。大胆な選択をするほど、失敗した時のリスクはかなりの痛手になってしまうはずです。ガバナンスの効かない会社としてのイメージダウンも避けられないと想像します。また、後継者の問題も深刻です。おそらく全ての実力経営者は後継者育成を最重要課題と認識していますが、往々にして後継候補者は「まだまだ甘く、物足りなく」見えてしまうものです。その結果、世代交代はどんどん先送りになってしまいがちなのです。そうなってしまえば、社員は何かに挑戦するよりも、カリスマの顔色を窺った方に長期的メリットがある、という風土が生まれかねません。これは、カリスマの神通力が強ければ強いほど、今度はカリスマ依存度の高さが強烈なリスクになるということです。株式市場も当初は実力経営者の推進力を評価するでしょうが、弊害が見えてくれば次第にそれをリスクとして捉え、逆プレミアムを株価に課していくと予想します。
残念ながら、実力経営者を擁する企業において、後継者がどれだけ育っているかどうか、「ヒラメ社員」が多いかどうか、を投資家が外部から伺い知ることはできません。しかし、一つのメドはあると筆者は思っています。あくまで経験則的な目安ですが、経営トップとそのすぐ次の世代の経営陣(トップと二人三脚で臨んできた番頭さん世代は除く)の間の年齢差です。ざっと15年程度を一つの境界線と見ているのですが、この差が大きいほど、何がしか弊害が生じてきやすい土壌にあるという見方です。そもそも15年というと、社員であれば新入社員と課長さんレベルくらいまでの年代差です。まして実力経営者とその下の世代において、そのくらいの時間軸の空白があった場合、突っ込んだ議論がきちんとできているかはかなり疑問が残るのではないでしょうか。一度、そういった視点でカリスマ経営者のいる会社をご覧になってみてください。カリスマ経営者への高い評価は、実はもう転換点を迎えているかもしれませんから。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。
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