第205回 ポンドを動かす3つの材料、ポンドの逆襲はあるか【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

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第205回 ポンドを動かす3つの材料、ポンドの逆襲はあるか【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

2015年6月から2016年2月まで実に8か月もの長い期間、下落トレンドが続いたポンド/米ドル相場。ここ2か月近くは底値圏でレンジが続いていますが、今後さらに下落再開となるのか、それとも大底を打ったのか...?!このところポンドを動かしているポイントをまとめました。

①6月23日に実施されるEU離脱国民投票
2016年2月19日、EU首脳会議がEU改革案に合意したことを受け、キャメロン首相は、6月23日の国民投票実施を表明しました。次期首相に最も近いとされるジョンソン・ロンドン市長がEU離脱支持を表明したことや、租税回避リストとして世界を騒がせているパナマ文書にキャメロン首相の亡父の名があったことで、EU残留を模索するキャメロン首相の求心力が低下するリスクが懸念されており、英国のEU離脱の可能性が排除できないことがポンド売りの材料になっていると指摘する向きも。また、スコットランドはEU残留支持を表明しており、英国のEU離脱が多数となればスコットランドはEU加盟を優先し、英国からの独立を目指す国民投票を再度実施する可能性が出てくるため、EU離脱が英国の分裂につながることも懸念されています。6月の英国EU離脱の可能性がポンド売りを加速させたことは間違いないでしょう。

②利上げ期待の後退
2013年6月の講演でBOE(英中央銀行)のカーニー総裁は「年内にも利上げするかもしれない」という発言をしたことで英国の利上げ期待が一気に高まりポンドは2014年7月までのおよそ1年間、利上げ思惑で上昇を続けました。2015年8月までカーニー総裁は、「利上げのタイミングは近づいているようだ」と発言していましたが、2015年11月5日、英中銀レポートで「景気のダウンサイド・リスクが浮上してきた場合には、利下げまたはQE再開も可能」とこれまでの発言を覆しました。それまでは最初の利上げは2016年第2四半期とされていたのが、2017年第1四半期へと見通しも変更、これを受けて利上げ期待で買われていた分のポンドが売られて、急落となりました。それまでは不動産価格の上昇などで好調だった英国経済でしたが、インフレ率は2016年下期まで1%を下回る見通しだと下方修正されたことが背景とみられます。ではなぜ、英国景気に急ブレーキがかかり、インフレ率が低迷しだしたのでしょうか。

英国12月の金融政策委員会(MPC)議事録で「石油価格下落で総合インフレ率が抑制される可能性が高まった」との記述がありました。原油価格下落は、世界のインフレ率を抑制してしまっていますが、特に英国には景気への影響も大きいのが特徴です。

③「ペトロポンド」~産油国英国は原油安の影響甚大
北海油田の利益が英国の税収の10%前後に達した1980年代、石油開発が盛んだった時代にポンドに冠せられていた「ペトロポンド」という言葉があります。ペトロカレンシーというのは産油国通貨を称する言葉ですが、英国は2015年でも世界23位の原油の生産量を誇る原油生産国です。市場関係者の中にはこのところのポンド下落の主要因は「原油価格下落」だった、とする向きもあります。実際にポンド/ドルの過去半年間の値動きを北海ブレント価格と比較してみると高い相関性を確認することができます。ポンドと原油価格の連動は、原油価格がドル建てであるためドルと逆方向に振れる(ドル安で需要が高まる)ことが影響しているともいえるのですが、原油価格が上昇する(ドル安になる)のであれば、ポンドが上昇するという相関があります。

17日のドーハでの産油国らの会合では、サウジアラビアがイランの参画なしには合意できないと態度を硬化させたことで、増産凍結合意が見送られ、原油価格の急落を招いたことから週明けのポンドドルも下落スタートとなりましたが、原油価格が下げ止まるようならポンドも過度に売り込まれることはないかと思います。合意は先送りされたものの、6月2日のOPEC石油輸出国機構の定例会合に向けては、増産凍結に向けた思惑が出てくる可能性は強く再び20ドル台へと下落するとは考えにくく、また現在の相場は米国利上げ見通しの鈍化でドル安基調にありますから、金融面からは原油価格の下値はサポートされるものと思われます。売られすぎたポンドの巻き返しの芽もあるかもしれません。

長期化する原油安に利上げ思惑の後退、さらにEU離脱リスクが加わって、売り込まれてきたポンドですが、ドル安是正とみられる動きが広がる中、原油の反騰がポンドの反騰につながる可能性も大きくなっているように思います。6月のEU離脱の是非を問う国民投票は、離脱となればポンド売りですが、離脱回避となればかなり大きなポンド買いにつながるかもしれません。ここから再下落となるか、巻き戻しに入るのか、興味深いところです。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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