第161回 戸籍制度の改革 【北京駐在員事務所から】

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第161回 戸籍制度の改革 【北京駐在員事務所から】

中国には戸籍(中国語では「户口」と書きます)の制度があります。
同制度の極めて特徴的な点は、全ての国民が「都市戸籍」あるいは「農村戸籍」のいずれかを持つこととされており、かつ戸籍のある市や村においてのみ、子女の公的な教育や医療サービスなど社会福祉制度の恩恵を受けることができるという点です。
都市部で住宅を取得する場合も、基本的に物件が所在する市の戸籍を持っていることが求められます。
最もハードルが高いと言われる北京市の戸籍を得るためには、政府機関等への就職や北京市民との結婚等、厳しい条件をクリアする必要があります。
一方、農村戸籍を持つことで、農地の所有(共同所有)が認められる等のメリットもあるのですが、平均的には都市住民の方が所得、生活水準のいずれも高く、このため農村から都市に移る人々、典型的には出稼ぎ労働者の「農民工」が多数存在します。

農村から都市に出て来ても、戸籍が無いのでは子女を公立学校に通学させることもできません。
このため、祖父母とともに、あるいは子供だけが農村部に残り生活する「留守児童」や、親に帯同し都市に移住したものの、十分な教育を受けることのできない子供の問題が深刻化しています。

所得増加により貧困からの脱却を図り、さらに経済産業構造を「消費主導」に移行させ安定成長を持続させたい習近平政権は、そのための具体的な施策の一つとして、農村部から都市部への移住を促す「都市化」を推進しています。
移住の障害となる戸籍制度について、このほど政府の国家発展改革委員会は、全ての県や市レベルの地方政府に対し、本年末までに、農村部からの移住者の受入と都市戸籍の付与についての計画を取りまとめ提出するよう指示しました。
昨年末までに、27の地方政府より計画が提出されたものの、一部では戸籍取得の条件が厳しすぎる等、問題が認められたとのことで、国家発展改革委員会の幹部は「農村部からより多くの移民を都市部に受入れ、彼らの生活水準を引き上げることは、第13次5か年計画(2016年~2020年)に定められた都市化の実現のための中核的な政策である」と述べています。

2020年の時点で、農村部から都市部への移民は2億人に達すると予想されており、政府は彼らに対し、まず短期の滞在許可を与え、その後徐々に都市戸籍保有者との間の社会福祉等での差を縮めて行く計画です。
いずれは故郷に戻りたいと考える農民もいることから、政府は2020年までに、1億人を都市部に定住させることを目標にしています。
彼らが都市部で良い職を得て、所得と生活の水準が向上すれば、消費も拡大し、中国経済の成長により寄与できるという訳です。

もっとも、移住者が希望したところで、北京や上海などの大都市の戸籍が得られる訳ではなく、移民を受入れ、都市戸籍を付与することに前向きなのはより規模の小さい都市に限られます。
一部では、「農民に戸籍を与え、在庫があふれている住宅を買わせよう」との皮算用をしている地方政府もあるそうで、国民の幸福のためというよりは、あくまで経済発展のために、農民を利用しようという意図が透けて見えます。
「皆がハッピー」となれるのか、若干の疑念も持ちつつ、注目していきたいと思います。

それにしても、中国では国民に「移動の自由」が与えられていないことに改めて驚かされます。
北京を初めとする都市部での経済活動は、外国為替に関する規制など一部を除き、西側先進国に遜色ないレベルと思うのですが、まだまだ経済、社会の至るところに統制色が認められます。
計画経済の色を残したまま、どこまで成長を持続できるのか、まずは2020年まで推移を見守ろうと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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