第76回 「割安株」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第76回 「割安株」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。日銀が追加緩和を見送った後、株式市場(と為替市場)は大荒れとなりました。先週に入ってようやく落ち着いてきた感はありますが、どんどん膠着感が増す状況となっています。国内では依然金融政策の限界が懸念され、消費税引き上げも政治判断待ちの状況にあります。海外でも英国のEU離脱懸念、米国利上げ観測のトーンダウンなど、俄かに状況は不透明感が募る展開にあります。前回ご紹介した「セル・イン・メイ(5月に売り逃げよ)」という格言もある中、引き続き様子見が主体の相場になると想像しています。

さて、今回は「割安株」をテーマに取り上げてみましょう。一般に割安株とは、様々なバリュエーション(業績や財務の評価から見た株価水準)が低位に放置されている銘柄を指します。ここで「低位」というのは、市場平均や競合他社との比較、あるいは歴史的水準などと比較して、判断されることが普通です。したがって、割安株への投資(=バリュー投資)は、株価の下値不安を比較的抑制できるうえ、何かのきっかけでバリュエーションが適正水準に戻ってくれば、キャピタルゲインも狙えるという投資スタイルになります。先行不透明感がある中では、非常に有効な手法であると言えるでしょう。直近では金利や政策、世界景気などに不透明感が増し、株式市場に方向性が見え難い状況となっています。そういった局面では、リスクを抑制して値上がりを狙うというバリュー投資の視点が今後注目されてくるのでは、と考えるのです。ちなみに、割安株の対義語は成長株です。ただし、強力な独自技術や革新的なビジネスモデル・新製品などを原動力とできる企業以外は、その成長期待はやはりマクロ環境に影響させざるを得ません。現在は成長株投資にはやや不利な環境と言えるかもしれません。

ただし、割安株投資にも「罠」があります。そもそも割安に放置されているということは、放置される理由がある、ということに他なりません。株式市場では、参加者が様々な手段で「上がる株」を探しています。本当にミスプライスが生じている可能性もあるにはありますが、割安株の多くは「割安に見えているが、〇〇の理由でバリュー投資の対象とするにはリスクが大きい」と投資家に判断された銘柄であると考えるのが自然でしょう。当然、そういった銘柄が適正なバリュエーションに戻るためには、その理由の解消が不可欠です。よく株式情報などで「割安なので注目」といった文脈を見ることがありますが、これは同時に「何故、割安に放置されているか」を考えておかなければ「罠」に嵌ってしまうことになりかねません。その理由が解決しない限り、割安株は永遠に割安株のままなのですから。

割安に放置されている理由としては、①日々の売買が薄く流動性が乏しい(投資家自身の売り買いで株価が大きく変動してしまい、売り抜けが難しい)、②ビジネスあるいは経営にボラティリティが高く、何かのきっかけで業績の急変が起こり得る、③他の指標(バリュエーション)ではむしろ割高感があり、バランスを欠いている、などが挙げられます。つまり、低流動性、高ボラティリティ、悪バランス、です。もちろん、これら以外の要因も考えられますが、概ねこれらのうち一つでもあれば、実は割安のまま放置されやすいと考えてよいでしょう。直近では、資源事業へのウエイトを高めていた商社株、製品・原料とも値動きの激しい電炉株、などがその好例であったと位置づけます。

では、どうすれば「永遠の割安株」を避け、本当の意味でのバリュー投資を実践できるでしょうか。業界や企業分析はその一つの解決策ですが、専門のアナリストのいない投資家にとって容易な方法ではありません。筆者は経験則として、配当利回りに注目しています。もちろん、配当利回りが高いだけでは「永遠の割安株」である可能性もあるのですが、現実に配当という実利を得ることができるという点がPERなどといった指標での割安株と決定的に異なります。しかも、基本的に企業は減配を避けたいという傾向があるため、少々の業績変動があっても高い利回りは維持され易いのです。仮に永遠に割安のままであったとしても、配当だけで十分な利回りが確保できるのであれば、合理的な投資と位置付けられるでしょう。流動性に難があったとしても、(配当というメリットが大きいだけに)時間をかけて売り抜くという戦略も採れます。そして、配当できる企業は、それだけ資金を社外に流出させても経営に問題はない、と考えているはずです。これもバランスを考えるうえでの好材料と考えます。これだとリスクは減配を中心に懸念すればよいというのもメリットです。いかがでしょうか。バリュー投資を考えられる際の一つの見方として、参考にしていただければ幸いです。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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