第77回 「マイナス金利」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第77回 「マイナス金利」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。膠着感の強かった相場ですが、ここにきて米国の利上げ観測台頭を受けて、円安の進行、株価もじり高という状況となってきました。しかし、依然として金利や為替などのマクロ要因が相場を主導する構図に変化はありません。一方、民泊やインバウンド消費などの明るいテーマも、かつてこのコラムで採り上げた際に懸念した通り、やや逆風が吹き始めてきたように思えます。今年は「セル・イン・メイ(株は5月に売れ)」という格言は機能しなかったようですが、まだまだ警戒感が解ける状況には至っていないように感じています。

さて、今回は再び「マイナス金利」をテーマに採り上げたいと思います。前回(2月)、マイナス金利導入直後にコラムで採り上げた時には、国債市中金利がマイナスを記録したことから貸出先が増える状況は想定し難く、事態の閉塞感に変化は出てこない、むしろリスクオフを一層加速させる引き金になったとの考えを述べました。あれから4ヶ月。事態はどうなったでしょうか。まず、国債の市中金利はずっとマイナスを記録したままです。これはやはり需要不足という状況の証左と言えるでしょう。また、副作用も出てきており、例えば企業の退職給付債務においては積立不足が発生し、2015年度決算では少なくない企業で特別損失の計上を余儀なくされました。企業業績だけでなく日経平均の推移をみても、日銀がマイナス金利導入を発表した日の終値が約17,500円。先週末は17,000円に届かず、とやはり弱い展開となっています。4月にはこのマイナス金利導入時の終値を上回る局面もあったのですが、これは日銀の追加緩和を催促しての上昇でした。その後は緩和見送りを受けて反落。現在に至っています。概して、市場は同じ金融緩和政策でも、量的緩和に対してはポジティブに捉える一方、マイナス金利についてはネガティブに捉えているという傾向が見てとれます。

この差は、読者諸兄も既に認識されているように、マイナス金利導入より銀行株のパフォーマンスが大幅に悪化にしたことが原因です。貸出先の増えない銀行にとって、マイナス金利は業績悪化材料になると見なされたのです。実際、先にマイナス金利を導入した欧州では銀行の業績悪化が鮮明となっており、その連想が日本市場でも働いたと言えます。残念ながらここから言えることは、株式市場は資金需要の乏しい状況に変化がなく、マイナス金利の効果もさほど見込んでいない、と見ていることになります。これは日銀や政府の公式見解には反することになりますが、これまでのところマイナス金利という劇薬はむしろ副作用の方が大きく顕在化してきている、という状況にあると言わざるを得ません。今後、日銀がさらに金利のマイナス幅を拡大させるとすれば、さらなる金融緩和というメリットよりも、その副作用をより警戒しなければならない、ということも考える必要があるでしょう。

では、突破口はないのでしょうか。確かに量的緩和は株価の上げ材料になるのでしょうが(実際、4月時点ではそう反応しています)、量的緩和だけでは景気浮揚効果にそう期待できないことも過去の実績が示す通りです。景気拡大がなければ、上げ展開はあったとしても一時的なものに留まってしまうリスクがあります。足元のように、円安の進行も(企業業績改善に繋がるため)株価押し上げ材料になりますが、これも資金需要拡大という本格的な景気拡大に直結するかどうかは微妙なところです(少なくとも日銀の異次元緩和を背景にしての円安を見る限り、です)。個別材料を軸に銘柄を一本釣りするという投資戦略を採ると割り切ってしまわない限り、相場全体としては膠着状態の継続を覚悟しておくべきかのかもしれません。

そういった中、筆者は配当利回りへの注目を継続しています。これは前回のコラムでも触れたのですが、膠着状態を前提としてみても、①東証1部で配当利回り4%を越える銘柄もあり、利回りは他の金融商品と比較して魅力的である、②企業は基本的に減配を避ける傾向にあり、安定感は高い、と考えるため、です。本来、株式はリスク覚悟で企業価値の拡大へ投資するという性格のものであり、債券投資とは対極にあるものです。しかし、相場が膠着する中で敢えて株式を債券のように位置づける、という発想です。現実の債券はマイナス金利となっているため、一般投資家にはあまり旨味のあるものとは思えないため、です。ここにも現在の金融環境のいびつさが見え隠れするのですが、投資で生き残るのはリアリストのみ、です。マイナス金利という異常事態が継続する中、株式の概念を取払って考える必要が増してきているように思います。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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