第166回 国有企業の改革は進むか? 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第166回 国有企業の改革は進むか? 【北京駐在員事務所から】

中国では、経済成長の減速で鉄鋼、石炭などの需要が減少し、これら重厚長大産業の主要なプレイヤーである国有企業が過剰な生産能力を抱え、収益悪化に苦しんでいます。
習近平政権も、整理淘汰を含む国有企業の改革は重要な政策課題と位置付けており、これまで多用されてきた合併統合などにとどまらず、閉鎖も含めた厳しい措置も辞さないとの姿勢に転じています。
しかしながら、大量の失業者が発生することへの懸念や、国有企業に経済の多くを依存している一部の地方都市の存在が、大ナタを振るうことをためらわせていました。

中国政府で国有企業を管理監督する国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)の幹部は、「昨年中に実施された国有企業改革は成果を挙げており、今年はさらに改革を加速する」と述べています。
昨年、政府の国務院は、造船、鉄道、通信などの国有企業12社について合併を承認しましたが、合併統合により効率化を推進することには、「寡占を招く」との批判がついて回ります。
この点について、SASACの幹部は、「競争相手が不利益を被ることが無いよう、国有企業側に必要な規制と手続を課しており、寡占との批判は当たらない」と反論しています。逆に見れば、国が主導し、一定の環境整備も行わないと改革が進まないことを示していると言えます。

国有企業の整理統合による競争力向上は、3月に開催された全国人民代表大会で李克強首相が発表した政府活動報告でも謳われており、最近の李首相の発言でも「国有企業はぜい肉を落として環境に適応していかなければならない」と構造改革の重要性が強調されています。
この路線に沿う形で、今後は経済の足を引っ張る「死に体企業」の閉鎖を大胆に進める方針です。
SASACの幹部は、特に過剰生産能力の問題が深刻な鉄鋼、石炭の企業について、今後2年間で生産能力の10%削減を図るとし、また「死に体企業」345社を閉鎖すると述べています。
もっとも、例えば中国の鉄鋼業の生産能力は、国内需要の2倍に達するとも言われており、「一帯一路構想」など大風呂敷を広げ、また中南米やアフリカなどでインフラ整備事業を積極的に進めるなど、海外に活路を求めているものの、生産能力過剰の状態は容易には解消しないと見られています。政府、SASACが大胆な改革に踏み切れるか、注目されるところです。

北京の有力大学である清華大学の教授は、今年が中国の経済構造の改革のために重要な一年になるとし、国有企業改革と都市化を積極的に推進すべしと主張しています。
同教授は、減速傾向にある中国の経済成長について、改革の進展が成果を発現し、今年の後半には底打ちから上昇に転じるとの楽観的な見通しを示しています。
しかしながら、鉄鋼や石炭業界では、今後100万人単位の失業者が発生すると見られており、サービス業やIT産業が受け皿として期待されているものの、中高年の労働者が新しい仕事に順応できるのか、見通しは不透明と言わざるを得ません。

日本でも、高度経済成長期の末期には、北海道や九州各地で炭鉱の閉鎖が相次ぎましたが、一方で都市部での建設ラッシュや、道路、ダムなどの公共事業が労働力を吸収した結果、大きな社会不安等には至らず、労働力と産業のシフトが実現されることとなりました。
翻って中国では、改革対象の企業の規模、関係する労働者の数ともに膨大で、経済への影響が避けられません。政府のもくろみ通りに改革が進み、無事軟着陸を図ることができるか、まずは「お手並み拝見」というところでしょうか。

中国経済、特に個人消費がさらに減速することになれば、自動車を初め日系企業にも影響が避けられません。
このところ、中国関連の話題といいますと、南シナ海での緊張、米国や台湾新政権との関係など、ちょっときな臭さが漂う感じですが、国内経済の動向にも要注意です。

=====================================

コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧