第79回 「CtoC(Consumer to Consumer)」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第79回 「CtoC(Consumer to Consumer)」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週は酷い相場でした。米国利上げも、日銀の追加緩和も見送りとなり、株式市場は期待が一気に剥落したかのように思える展開となりました。前回のコラムで採り上げたBrexit(英国のEU離脱)の是非を問う国民投票も今週に控え、株価はまだまだ神経質な展開が続くものと予想しています。さらに参議院選、都知事選も控えていることも、灰汁抜けが遠いという印象が否めない一因です。最近は大型株よりも新興市場などの中小型株が物色される傾向が強いのもこのためかもしれません。

さて、今回は「CtoC(Consumer to Consumer)」をテーマに採り上げたいと思います。CtoCとは一般に、消費者同士による商取引のことを指します。これは、法人間取引を指すBtoB(Business to Business)、法人による消費者向け取引を指すBtoC(Business to Consumer)に並ぶ第三の取引形態ということができるでしょう。そもそも個人間での商取引(物々交換を含む)はむしろ最も古くから営まれてきた形態でしたが、近代以降は法人によるビジネスが圧倒的となったため、CtoC市場の存在感はかなり希薄なものとなっていました。しかも、売り手にしてみれば、(素人であるが故に)販売する場所の確保やそこに陳列する商品の搬入などが大変な手間だったうえ、買い手にしても商品や売り手のクオリティが担保されておらず、双方にメリットの少ない取引形態ともなっていたのです。

しかし、インターネットやSNSの浸透により、最近では徐々にCtoCの取引が増加してきているようなのです。CtoCの一番シンプルなイメージは休日などによく開催されるフリーマーケットですが、インターネットオークションもCtoCの一つと言えます。そう考えれば、CtoCが増加傾向にあることは想像しやすいのではないでしょうか。SNSなどにより、商品展示はネットで手軽に可能となり、売り手、買い手の評価が公開されることで質の確保も可能となったことがそのきっかけでした。大量生産された無個性な商品よりも、手作りなどによる個性のある商品を志向する層が増してきたことに加え、エコ的観点から余った様々なモノを有効活用する、といった社会的意義もCtoC復活の追い風となっています。そして何よりも、中間業者が省かれた直接取引となるため、売り手・買い手双方で(BtoCに比べて)有利な価格での取引が可能となる点も重要です。BtoCの市場規模からすればCtoCはまだまだ小さな存在ですが、明らかにこれまでなかった新しいトレンドが生まれつつあるように感じています。

では、このテーマに関連した株式投資を考える場合はどうでしょう。残念ながら、直接関連する企業は見当たりません。そもそも消費者個人間の取引であるため、企業はそこに介在できないため、です。しかし、間接的にCtoCの拡大をサポートする事業は幾つか想定できます。まずは、インターネットなどにおけるCtoCプラットフォーム会社です。CtoCは消費者同士の直接取引とはいえ、ネット上に誰もがアクセスしやすい仮想商店街は不可欠です。ネットオークションも、やはりプラットフォーム会社が運営しているのが実態です。CtoCのインフラとして、こういった企業群が注目されるのでは、と考えます。また、決済関連企業も注目できます。直接取引とはいえ、目の前で現金のやりとりをするのではない以上、決済機関の関与は避けられません。現在はネットバンキングや銀行振込が活用されていますが、その手数料や決済速度などにはまだまだ発展の余地が大きいように思えます。これらは、ちょうど旬のテーマでもある「フィンテック」関連銘柄ともリンクしてくるはずでしょう。フィンテックは一気に注目を集めたテーマですが、その中身となるとまだまだ漠とした印象は拭えません。CtoCの決済という視点を一例として捉えてみると、より具体的な注目分野が見えてくるかもしれません。

さらには、CtoCの活性化により、これまで埋もれていた様々な技術や商品、アイデア、才能が表に出てくることも期待できます。商取引を通じることで、洗練された個人のセンスが世の中で公正な評価を受けることになるため、です。これまでも「知る人ぞ知る」的な商品やサービスは確かにありましたが、それでもこれらの多くは法人による展開でした。CtoCが機能してくれば、最初に法人組織を作る必要なく、自らの才能を世に問うことが可能となります。価値観の多様化が進む中、こういった「個」による発信は徐々に認知されつつあるように感じます。このことは、延いては現在の「マス」を視点においた企業経営の在り方にも一石を投じることになるのかもしれません。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧