第169回 航空便の遅延が常態化 【北京駐在員事務所から】

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第169回 航空便の遅延が常態化 【北京駐在員事務所から】

経済発展に伴い、中国では国内交通における航空便の地位がどんどん高まっています。

高度成長期の日本で、本州と北海道の間の移動が、列車と青函連絡船から航空便にシフトしていった状況と重なります。

運賃は鉄道の方が大幅に安いので、学生や出稼ぎ労働者の帰省はまだまだ鉄道が主流ですが、LCC(格安航空会社)も続々誕生しており、「長距離の移動は航空便で」という時代が間近に迫っています。近年急速に路線網を拡大している高速鉄道との競合も気になるところです。

ところが、中国では様々な事情、制約により、航空便の遅延が常態化しており、乗客の不満が高まっています。

遅れに業を煮やした乗客が、航空会社や空港の職員に対し暴力行為を働く等の問題も頻発しています。

中国政府で民間航空行政を担当する中国民用航空局は、このほど公表した年次報告書の中で、昨年2015年中の民間航空便の遅延状況について、航空会社関係者の様々な努力にもかかわらず改善が見られていないとしています。

中国の航空会社が昨年2015年に運航した337万便のうち、定時に運行されたものは68%にとどまり、前年2014年と同じ結果となりました。

また、遅延の平均は21分で、2014年の19分から2分間長くなりました。
遅延発生の原因は、航空管制の指示が30.7%、悪天候が29.5%、航空会社の責によるもの19.1%となっており、残りの20.7%は「その他の理由」として詳細は明らかにされませんでした。恐らくこの中に、「乗客が起こしたトラブル」が含まれるものと思われます。

前年2014年は、航空会社の責による遅延が最多で、悪天候が第二位であったとのことで、航空会社からすると、「せっかく頑張って遅延の軽減に努めたのに、航空管制のおかげで努力が水の泡」というところでしょうか。

特に、定時運航率の低い航空会社に対しては、運航便数の削減やチャーター便の運航停止などの処分が下される制度の運用も始まっていることから、「泣きっ面に蜂」という状況になっています。

中国では、空域の多くが軍の利用に割り当てられており、民間航空機の飛行空域が厳しく制限されています。

北京空港に到着する便も、高度を下げながら左右に細かく進路を変えることが多く、「針の穴を通す」航路を強いられていることが分かります。

専門家は、遅延削減のためには、航空会社の努力だけでは限界があり、空域の再編と民間航空機への追加開放が必要不可欠と指摘しています。

一方、別の専門家は、空域を追加開放しても、需要増による航空便の増加の影響が上回り、遅延の問題は容易に解決しないと悲観的な見通しを示しており、残念ながら、利用の際は遅延を見込んだ旅程を考えざるを得ないのが現状です。

先月、上海に出張し、最終便で北京に戻ったのですが、22:30に出発予定のところ、「使用予定の機材が航空管制の指示のため到着しない」とのことで結局出発が0時過ぎ、北京到着が1:40になりました。

飛行時間1時間半のフライトが1時間半以上遅れるというのは、なかなかダメージが大きいです。
中国では、広い国土を縦横無尽に航空便が飛んでおり、航空管制以外にも、遠隔地での悪天候が機材のやり繰りに影響し、玉突き的に遅延を増幅させる等の事態も生じます。怒ってトラブルを起こす乗客への対応を含め、航空会社に同情せざるを得ないところもありますが、遅延の削減のため、出来る限りの努力を望みたく思います。

航空便の遅延の話題から、中国の様々な「お国柄」が垣間見えるように思いました。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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