第80回 「仮想通貨」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第80回 「仮想通貨」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。6月は大変な相場でした。セル・イン・メイ(株は五月に売れ)という格言が6月にずれ込んだような展開でした。日銀の追加緩和見送りに始まり、都知事の辞任、英国のEU離脱など、ビッグニュースが立て続けに出てきた印象です。今はまず悪材料を織り込む展開となりましたが、材料が政治的な分だけ、依然として先行不透明感の払拭には至っていないのが実状でしょう。特に、BREXITの国民投票結果は時代が大きく変わってきていることを示しているような気がしてなりません(本コラムでもかつて触れたうえ、結果が出てからは多くの分析・解説記事が出ています)。これについては、またどこかでコラムにまとめてみたいと思います。

さて、今回は「仮想通貨」をテーマに採り上げたいと思います。ビットコインに代表される仮想通貨は、世界中で個人間の直接送金を自由に行えること、その際にも手数料などの発生を極力抑制できること、といった利便性を軸に2010年頃から実際に使用され始めました。仮想とはいえ通貨ですから、材やサービスの決済手段としての利用がその主たる用途となります。手持ちの円やドルと同じような使い方という点では、電子マネーに似ているかもしれません(電子マネーは既存の通貨を利用しているので、内容は決定的に異なりますが)。ただし、やはり通貨であるため、その通貨を認めた相手とでなければ、決済手段としては機能できません(ドルを受け取らないお店では、ドルで買い物ができないのと同じです)。そういった意味では、現在はまだ浸透度が低く、一般的な利用通貨には至っていないのが実状です。仮想通貨がインフラとして機能するには、まずこのハードルを越える必要があると言えるでしょう。

同時に、通貨である以上は、信頼性が不可欠です。通常の通貨は、各国の中央銀行が保証する形態を取る形で信頼性を担保しています。中央銀行は通貨の発行量も厳格に制御しており、その価値が毀損することのないように細心の注意を払っています。しかし、民間が運営管理する仮想通貨の場合は、その信頼性は脆弱なものとならざるを得ません。広く通貨を流通させるにはそれなりの流通量が必須となりますが、闇雲に通貨を発行してしまうとインフレを招くリスクも大です。ビットコインは発行量・流通状況を全て把握・可視化することでその信頼性を担保する仕組みとなっていますが、2014年にマウントゴックス事件が起こったように、既存通貨並みの信頼性を得るにはまだ万全ではないというのが現実のように思えます。各国政府から自由な通貨、利便性の高い通貨、というメリットは確かに大きいものの、広く市民権を得るにはまだ課題も残っているというところでしょうか。

ただし、最近は世界中の通貨が不安定となってきており、資産逃避先の一つとして、仮想通貨を安全資産として注目する向きもあるようです(円高の進行もその一環です)。再度規制色を詰めてきた中国元、BREXITにより動揺するユーロ・ポンドといった状況を見れば、少々の課題には目を瞑っても、政府から自由な通貨という位置づけが魅力に映るのも理解できます。現時点では緊急回避的な動きが主体のように思えますが、将来の普及期待も考えた長期的な投資資金も入っているのかもしれません。

既に株式市場では過去に何度かテーマとして仮想通貨関連銘柄が取り上げられてきました。しかし、そういった株式市場の期待値に比べれば、仮想通貨の浸透度は依然として高くなく、そこにはややギャップがあったように思えます。今回、仮想通貨が(安全資産として)注目を浴びることとなれば、そういった観点で再度物色対象となることもあるのでは、と想像します。ただし、そこから仮想通貨自体の発展へとシナリオを昇華させるには、前述の課題の克服が不可避であることは認識しておく必要があります。既存の金融システムへのアンチテーゼとしてテーマは壮大ですが、やはり長期と短期を分けたスタンスで投資に臨みたいところでしょう。むしろ、仮想通貨の持つ現在のメリットは、ひょっとすると「フィンテック」関連でかなりカバーできる可能性もあるのでは、と考えます。マイナス金利の導入で世界中の金融株は苦戦を強いられていますが、これらのキーワードを繋げる仕組みが今後出現してくれば、新たな金融のビジネスモデルが誕生するかもしれません。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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