第215回 日銀短観、切り下げ続き想定為替レートと今後の懸念【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

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第215回 日銀短観、切り下げ続き想定為替レートと今後の懸念【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

7月、第2四半期スタートしました。2016年は1月4日の年初取引開始初日と、4月1日の第1四半期スタート初日の取引で日経平均が急落、ドル/円相場もこれに連れて大きく円高に振れるという値動きをみせただけに、先週7月1日の第2四半期初日の取引で日経平均が5日続伸で106円高、ドル/円相場も102円で底固く推移したことに安堵の声もあるようです。しかしながら、1日発表された日銀短観の内容は決して安心できるものではありませんでした。

7月1日に発表された日銀短観によると、2016年度下期の企業の想定為替レート平均は、111.41円。前回4月短観の117円台から6円も円高に修正されたものの、現状のドル/円レートは102~103円台とさらに7~8円円高が進行しています。このまま円高が常態化すれば下期の収益計画は相当下ブレが予想されることとなります。想定為替レートとは、企業が事業計画や業績見通しを検討する際、事前に基準値として決めておく外国為替相場のレート。輸出企業は、輸出した先の外貨ベースでの売上を最終的には日本円で評価しますので、想定為替レートよりも円安が進んでいれば、利益のかさ上げ効果が見込めますが、想定為替レートよりも円高が進んでいれば収益は悪化、評価減が生じてしまうことになります。アベノミクスが始まった2012年10~12月期以降、2015年までは実勢相場が想定レートを上回る円高になったことはありませんでしたが、2016年に入ってから企業の想定レートを上回る円高で決算を迎えるという事態に陥っています。今回の日銀短観は24日の英国のEU離脱が決まる前にほとんどの企業が回答を終えていたため、このリスクを反映していない内容となっています。

この円高基調が、輸出企業に大きな影響をもたらします。為替ニュースで「輸出の売り」という言葉が出てきますね。これが今後のドル/円相場の上値を抑えてしまうリスクが高まってしまいました。

輸出企業は自社が想定した為替レートより円安ドル高の水準でドルを売りたい。円転といいますが、海外での収益である外貨を円に換えて従業員の給与に充てるなどして、最終的に円建てで事業収益を確定します。となると、できるだけドル高の時に円に換えたほうが円建てでの利益が大きくなりますね。私たち個人投資家が、ドル/円を買いで保有していて、これを利益として確定する際、なるべくドルが高いときに売りたいというのと同じです。ところが、現在は想定為替レートよりも円高が進んでしまっています。なるべく高いところ、、、というより、すでに現状での収益予想はマイナスですから、輸出企業にとってはかなり苦しい状況です。自社の想定レートに近付くようなドル上昇があれば、そこでは為替担当者がすかさずドル売りを出してきます。想定為替レートを105円設定している企業があるとします。ドル/円相場は24日に98円台にまで円高ドル安が進んでしまいました。日銀短観を見ると、想定為替レート平均は111円台です。111円まで戻るかどうかもわかりませんので、105円に社内レートを設定していた企業は105円までドル/円相場が上昇すれば、すかさずドル売り円買いの注文を出してきます。このチャンスを逃してドル売り円買いをしておかなければ、また100円、90円へと円高が進んだ際、為替担当者の責任が問われる事態となるためです。もっともっと円安ドル高が進むことが明らかであれば、それを待ってもいいのですが、短観で明らかとなった大企業の想定為替レートが111円であることを考えると、多くの企業も同じことを考えているとみていいでしょう。輸出企業にはドル/円が反発すればすぐ売りたいとの焦りが生じ我先にドル売りが出ることが想定され、こうした輸出企業の売りが、ドル/円相場の上値を抑えてしまうことが今後のリスクとなってしまいました。英国のEU離脱の急落の反動でドル/円相場は急落の半値程度は反発していますが、ここからの高値には輸出の売りがずらりと並び、上値を重くするものと考えられます。


コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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