マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
世界各国のリゾートでホテル等の施設を運営するクラブメッド(以前の名称は「地中海クラブ」)は、昨年、医薬、不動産等を中心とする中国の企業集団「復星国際」に買収され、中国系企業になりました。
クラブメッドは、日本ではバブル経済期の1987年に、北海道中央部の新得町に「サホロリゾート」を開設し、現在も運営を行っています。
そのクラブメッドが、このほど、復星国際グループで貿易、小売、飲食業等を手掛ける「上海豫園旅遊商城(豫園商城)」と業務提携を行い、北海道に二つ目のリゾート「クラブメッドトマム」を来年2017年に開業することを決定しました。
対象となる施設は、高度成長期の余韻が残る1983年に「アルファリゾート・トマム」として開業し、その後バブル崩壊の影響により運営会社の経営破綻や事業譲渡など紆余曲折を経て、現在はリゾート施設の再建等で実績豊富な「星野グループ」が運営する「星野リゾート トマム」です。
豫園商城は、昨年11月に、総額183億円でトマムリゾートの所有権を譲り受け、以来同リゾートへの中国人旅行客の送客に力を入れています。
豫園商城の会長は、買収前との比較で中国人訪問者数は3倍に、また客室稼働率、売上及び利益はいずれも8割増になったと述べ、買収効果を強調しています。
クラブメッドのCEOは、北海道を訪れる中国人が増加していることの理由を、野外でのアクティビティを好む家族連れやカップルに最適の訪問先であることと指摘し、運営中のサホロリゾートがフル稼働状態にあることから、買収により、北海道に早期に第二の拠点を設けることにしたと述べています。
また、復星集団の不動産部門のトップは、リゾート施設の価格評価について、「以前は土地の価格が支配的であったが、近年は物件が訪問客にもたらす幸福感等、付加価値の大きさが重要な決定要因になっている」と指摘しています。トマムリゾートは、スキー等ウィンタースポーツの魅力に加え、その規模の大きさや周辺の自然環境と相まって、中国人旅行客を引きつける要素満載です。復星グループは良い買物をしたと言えそうです。
トマムリゾートは、リゾートには珍しい超高層のホテルなど、豪華な施設を売り物に華々しく開業したものの、バブル崩壊の影響に加え、冬場のスキー客への依存度が高かったことなどから経営不振に陥り、所有者や運営会社の交代など不安定な時期が続きました。
2004年に星野リゾートが施設の所有と運営に参画し、夏場の集客強化のため新たな施設を開業し、またホテルなど既存施設のリニューアルを図るなど強化策を講じたことで、業績が回復傾向にあると伝えられています。
復星グループによる買収後も、リゾートの運営は星野グループが行う予定となっており、通年型のリゾートとしてさらに発展することが期待されます。
北海道でのスキーやゴルフなどは非常に魅力的ですが、日本では既に人口が減少傾向にあり、また高齢化も影響しスポーツの市場は縮小が顕著です。
当然ながら、施設は一定水準の稼働を維持する必要がありますので、多くの企業が日本人客の減少を中国人など外国人旅行客の獲得により補おうと考え、パイの争奪戦の様相を呈しています。
先日、修善寺(静岡県)のホテルが中国の旅行代理店により買収され、中国人の受入により生き残りを図っていると伝えるテレビ番組を見ました。増加が期待される客層にフォーカスを当てることは当然ですが、日本人の好みに合う施設、サービスが消えて行くことにならないか、ちょっと心配にもなるところです。
欧州プロサッカーリーグのチームにも、中国企業が買収に触手とのニュースが頻繁に報じられます。
旅行、スポーツ、エンタメなど様々な分野で、チャイナマネーと中国市場への依存が高まるのでしょうか?
オイルマネーは未だ健在ですが、1980年代に世界を席巻したジャパンマネーは、今や見る影もありません。主役交代を痛感させられるニュースでした。
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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長
マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト
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