マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。
ソフトバンクグループは7月18日、ARMの発行済み株式および発行予定株式のすべてを現金で買い付けることで合意したと発表しました。総額約240億ポンド(約3.3兆円)の買取価格を対価としてARMの株式14億1,200万株を取得する、ということで驚きの金額です。
ソフトバンクは過去にも大型M&Aで市場関係者をアッと驚かせてきましたが、最も記憶に新しいのが、2012年10月末に報じられた米スプリント・ネクステル買収です。この時点ではまだ衆院解散前、アベノミクスが始まっておらず総額201億ドルに上る買収合意は円相場が1ドル=78円台でした。アベノミクスがスタートした翌年1月末の決算発表で孫氏は、円相場が変動するかもしれないと予期していた、買収資金は同82円20銭 でヘッジしていたため、2,000億円近くを節約できると語り、市場関係者をうならせました。この時、ソフトバンクによるドル買いがドル/円相場を1~2円持ち上げたとも指摘されています。M&Aはその規模、タイミングによっては為替市場に大きな影響を及ぼすこともあるのです。今回のARMの買収はこの時の買収額をはるかに上回る規模ということで、この発表後、為替関係者は色めき立ちました。なぜなら日本企業による英国企業買収ですからポンド円相場でのポンド買いの思惑が広がる可能性があるからですね。
実際に為替市場を大きく動かした事例は多くあります。ソフトバンクのスプリント買収時もそうでしたが、ベルギーのビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブが2015年11月11日、世界第2位の英SABミラーを710億ポンド(約13兆円)で買収することを正式に決めたと発表したことがきっかけで、ユーロポンド相場が大きく動きました。13兆円の半分は株式交換とされていましたので、単純な為替市場のフローの可能性は6兆円余りと推測され、仮にその半分だったとしても3兆円程度のユーロ売りポンド買いが起きた可能性があります。実際にそうした為替のフローが出たかどうかは別としても、その巨額のユーロ売りポンド買いの思惑がユーロポンドの下落につながった可能性は否定できません。ユーロポンド相場は2015年10月13日の0.7491ユーロを高値に11月18日の0.6981ユーロまで1カ月ほど下落が続きました。
しかしながら、日本企業が海外企業を買収する際の資金調達法はさまざまです。仮に米国企業を買収する場合、米国でドル建ての社債を発行し、買収に必要なドル資金を集めるというやり方があります。現地でドル調達するということですね。あるいは円で借り入れをした上で、銀行などと通貨スワップと呼ばれるデリバティブ取引を締結する方法。通貨スワップは、当初借り入れた円を銀行に渡す代わりに同価値のドルを受け取ります。将来ドルを銀行に返して円を受け取るということになりますが、その際の為替レートは予め決まっているため、為替変動には影響を受けないというスタイル(通貨スワップを受けた銀行がドルを調達することにはなりますが)。あるいは増資によって自社の株式を発行し、その株式を買収のターゲットである企業に渡す(交換する)というケースも。為替市場を通じて、ドル買いを行ってドルを調達するという単純な方法だけではないのです。
ですから、今回、3.3兆円規模のポンド買いが必ずしも出るということではないのです。一部報道に95%がドル建てベースとの報道もあり、その全容は明らかではありません。
あるいはスプリント買収の時のように、実際に為替市場を通じてポンドを買うとしても、孫さんのことですから、発表前にはすでにポンド買いを終えているのではないか、というのが現在のところの市場関係者の見方です。ブレグジット騒動で160円から128円まで下落したポンド/円がわずか1週間程度で143円まで15円も上昇しました。この背景にソフトバンクのポンド買いがあったのではないか...。市場関係者らの推測に過ぎませんがその可能性も否定できず、この報道を受けて、今からポンド買いだ、と決め打ちしないことです。
コラム執筆:大橋ひろこ
フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。
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