第172回 乳幼児向け粉ミルクの輸入が急増中 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第172回 乳幼児向け粉ミルクの輸入が急増中 【北京駐在員事務所から】

中国政府の国家質量監督検験検疫総局(国内で販売される、あるいは輸入される食品の品質や安全性を検査し認証する機関です)がこのほど発表した統計によりますと、中国では乳幼児用粉ミルクの輸入量が年々急増しています。
ちなみに、名称中の「質量」は、日本語では「品質」の意味です。
2011年には57,000トンを輸入していましたが、昨年2015年には176,000トンと3倍強になりました。年率では32%増です。
輸入元はEU諸国、東南アジア、ニュージーランドなど18の国と地域に及んでおり、まさに中国が世界中から粉ミルクを「買い集めている」状況です。

脱脂粉乳など、乳幼児向け以外の粉ミルク製品の輸入も高水準に達しており、過去5年間は毎年100万トン以上、国内流通量の20%ほどを輸入に頼っています。

輸入急増のきっかけとなったのが、日本でも大きく報じられました2008年の「メラミン混入粉ミルク事件」です。
粉ミルク中のタンパク質の量を水増しするため、中国の大手メーカーが製品にメラミンを混入した結果、腎臓結石等の健康被害を誘発し、乳児4名(6名との説もあります)が死亡し、20万人以上に被害が生じる一大事件となりました。
この事件以後、中国政府は国内メーカーの粉ミルク製品に対する監視を強め、また消費者の不信の広がりもあり、輸入品への需要が高まる結果となりました。
政府と各メーカーは、「中国製品の品質は著しく向上した」あるいは「国内で製造された乳幼児用粉ミルクの99%は、国が定めた安全性基準に適合している」などと宣伝し、消費者の根強い懸念の払拭を図っていますが、「わが子には安全なものを与えたい」と考える親の心を動かすことは容易でなく、高価であっても輸入品を買い求める動きは強まる一方になっています。

日本でも、紙おむつ製品などで、大量に購入し中国に持ち込むブローカーや日本に居住し代理購入を請負う中国人のおかげで、商品が品薄になるなどの影響が生じています。
一部のメーカーは、対抗策として中国のネット通販サイトに自ら出店し、割安な価格で販売することでブローカーの暗躍の余地をふさぐ措置を取っており、一定の成果を挙げているようです。
一人っ子政策の廃止によっても、中国の新生児の数は大きくは増えないと見られていますが、それでも年間1,000万人を超える出生があり、日本と比べれば遥かに大きな市場です。乳幼児向けの商品を扱う日系企業には事業拡大の余地が大きいように思えます。

それにしても、日々口に入る食品や飲料で、偽装や異物混入のニュースが絶えないことには、驚かされるとともにいささか憂鬱になります。
私が北京に赴任してから、来月で丸4年になりますが、この間、メラミン粉ミルクや段ボール肉まん、さらには日本でも健康被害が発生した冷凍餃子ほどの大きな事件は発生していないものの、ミネラルウォーターや白酒(中国の蒸留酒)などで異物混入や表示の偽装などがしばしば発覚しています。
不正行為に対する処罰(刑事、民事および社会的制裁)が軽く、また検査の態勢も脆弱なため、「やった者勝ち、見つかったやつは運が悪い」と言う風潮が根強く、改善への歩みが見られません。
また、消費者の方も、「のど元過ぎれば・・・」と言う感じで、問題発覚で商店の店頭から消えた商品が、数ヵ月後には何ごとも無かったかのように販売されているのを見ますと、「寛容」なのか、それとも実は「お互い様」なのかと勘繰ってしまいます。
中国にいる限り、食品の汚染や偽装の問題は避けられないと言わざるを得ません。

粉ミルクの輸入増と言う話題から、中国の親の子に対する愛情や、社会の様々な問題が浮かび、いささか複雑な思いに駆られてしまいました。

=====================================

コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

マネックスからのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。
マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

マネックスメール登録・解除

コラム一覧