第219回 米国はなぜ利上げに踏み切らないのか~利上げの条件とは 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第219回 米国はなぜ利上げに踏み切らないのか~利上げの条件とは 【大橋ひろこのなるほど!わかる!初めてのFX】

米国の年内利上げに懐疑的なムードが強まってきました。注目された先週の7月のFOMCでは利上げ期待はほぼ皆無でしたので、政策金利据え置きは驚く内容ではありませんでしたが、注目された声明文も「経済の短期的なリスクは後退した」、雇用も「力強く伸びている」と指摘しており、比較的利上げに前向きな文言が入ったにもかかわらず、FOMC後にドルは下落基調を強めています。景気後退の心配は払しょくされ、雇用も安定しているとしているにかかわらず、市場は近い将来米国の利上げが実施されるとの見方は少数派のままです。ではFRB・米連邦制度準備理事会は一体何を見て政策金利の引き上げを判断するのでしょう。

デュアル・マンデートという言葉があります。これはFRBとFOMC・連邦公開市場委員会が連銀法により課されている「物価の安定」と「完全雇用(雇用の最大化)」という金融政策の運営にあたっての2つの法的使命のことです。大恐慌による大量失業の経験から雇用の最大化は政府の義務であるという考え方が広まり、70年も前の1946年に定められた雇用法によってFRBの使命としても課せられるようになったのです。

では具体的に物価の安定と完全雇用とは何を基準にするのでしょう。

①物価の安定

おおよその先進国のインフレ目標は2.0%に設定されていますね。米国の目標とするインフレ率も2.0%です。日本も黒田総裁が2.0%をターゲットにしたばかりに達成できずに苦難の道を強いられていますが、米国のインフレ率は極めて健全に上昇してきました。インフレ率を見る際はCPI消費者物価指数を見ます。米国のCPIは2015年1月にコア指数(食品エネルギーを除いて)が前年同月比で2.0%上昇となりました。現在最新の6月コアCPIは2.3%です。

②雇用の安定(雇用の最大化とも呼びます)

完全雇用というマクロ経済学上の概念では失業率に注目しています。経済協力開発機構(OECD)の米国に対する完全雇用失業率推定値は1999年において4%から6.4%とされてますが、現在はおおよそ5.0%を切れば「完全雇用状態」であるとのコンセンサスのようです。6月の雇用統計における失業率は4.9%ですので、米国は完全雇用状態であると言っていいでしょう。


①の物価の安定と②の雇用の安定のデュアル・マンデートは達成しているのですが、なぜFRBは利上げに慎重なのでしょうか。これは前回コラムで書きましたが、ドル高が進行することでの製造業への影響を意識しているものと考えられます。ブレグジット(英国のEU離脱)や欧州域内で繰り返されるテロ事件などでポンドやユーロなどの欧州通貨に不安が募って、ドルが選好されやすい地合いとなっていることで、じわりドル高が進行していました。

前回コラム 第218回 7月FOMCと日銀、イベントのポイント~金利と

しかし、先週の7月29日の日銀の金融政策決定会合では思惑と期待が高まっていた追加緩和(ヘリコプターマネーまで期待された側面も)が、期待値に応える内容でなかったことから、日銀バズーカによるドル高のリスクが後退して、ドル高の是正が入っています。

FRBは物価と雇用というデュアル・マンデート以外にも、ドル高にならぬようドルレートも意識しているのではないか、というのは私の個人的見解に過ぎませんが、製造業票多獲得のためにドル高是正を唱える大統領選挙も、影響しているように見えてなりません。米国利上げ見込みが強まることが無ければ、ドル円相場は100~108円くらいでのレンジ相場から抜けられないのではないでしょうか。ただし、ドル円相場は米国側の金融政策や経済指標などの材料だけでなく、日本側の金融政策や指標でも大きく動くこともあります。日銀バズーカ砲での円安などがその好例ですね。後は今回7月の日銀金融政策決定会合の声明文にあった「次回の決定会合で、これまでの金融緩和の下での経済・物価動向や政策効果の総括的な検討を実施する。議長(日銀総裁)はその準備を執行部に指示」という項目が9月の会合での新たなバズーカ期待につながるのかどうか、という点がポイントになってくるでしょう。

コラム執筆:大橋ひろこ

フリーアナウンサー。マーケット関連、特にデリバティブ関連に造詣が深い。コモディティやFXなどの経済番組のレギュラーを務める傍ら、自身のトレード記録もメディアを通じて赤裸々に公開中。

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