第82回 「自動車軽量化」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第82回 「自動車軽量化」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。うだる様に暑い日々が続いています。皆様、体調はいかがでしょうか。夏は暑い方が経済的にも風物詩的にもよいのでしょうが、流石にこれだけ灼熱となるとややげんなりです。夜は夜でリオ五輪に釘づけとなってしまっているため(笑)、株式市場もぼんやりとした展開が続いているようです。当面はイベントもない分、こういった時こそゆっくりと投資戦略を練り直すタイミングにしたいところです。

さて、今回は「自動車軽量化」をテーマに採り上げたいと思います。このテーマは1990年代には既に取り沙汰されてきたもので、折に触れてこれまで何度も注目されてきたものです。そういった意味では理論や関連銘柄などはとうに議論が尽くされてきた感もあります。それでも時間を置いて必ず盛り上がる局面がやってくるという意味では、いわば「永遠のテーマ」とも言えるかもしれません。オリンピックで相場がやや閑散としているところでもあり、また今はこのテーマへの注目度が低下していることから、ちょっと落ち着いてこのテーマを掘り下げてみたいと思います。

そもそも自動車の軽量化は何故必要なのでしょう。答えは簡単です。軽量化によって自動車の燃費向上を実現すれば、排気ガスの削減が可能となるため、です。これは米国で環境意識に高まりとともに規制が強化されたことがきっかけでした。当然、それは消費する燃料の抑制にも繋がるため、資源維持という点でも、消費者の負担する維持費という点でも、メリットのある動きなのです。また、排ガスを懸念する必要のない電気自動車においても、車体の軽量化は電池の消費を抑制し、結果的に走行可能距離を引き伸ばすことに繋がるため、軽量化は非常に重要な技術的課題でもあるのです。これが息の長いテーマとなっている大きな理由であると言えるでしょう。

自動車軽量化の実現に向けては、主として素材が注目されてきました。まずは鉄の3分の1の重さしかないアルミ素材です。かつて自動車軽量化といえば、車体のアルミ化を指していると言っても過言ではありません。ただし、強度面は鉄に劣るため、使用部位が限定されてしまううえ、なんといってもコスト面で高いハードルがあったのです。一方、従来の鉄材料では高張力鋼板(ハイテン)などが開発され、強度を増すことでより軽量化を図るアプローチが浸透しました。現在は、アルミとハイテンが軽量化の主軸であり、コストや加工性といった点で日本ではハイテンにやや分があるという感じでしょうか。ただし、そのハイテンの開発も、アルミの攻勢という危機感が鉄鋼メーカーを動かしたため、と言えなくもありません。まさに、競争することで工夫が生まれ、よりよい製品・商品が開発されていくという典型例のように思えます。

では軽量化の今後はどうなっていくのでしょうか。シナリオは大きく3つあります。一つは、ハイテンとアルミという競合が継続し、両者が切磋琢磨してどんどん軽量化を推進させていく、というもの。もう一つは、新たな素材が新規参入し、三つ巴の競合になるというもの。そして、(ガソリン車の場合は)内燃効率の改善によって、燃費の画期的向上が図られ、軽量化そのものの重要性が低下していくというもの、です。最初のシナリオは想像しやすく、株式投資を考えるうえでも特に新しい視点は必要ないでしょう。二番目のシナリオでは、当然ながら、新素材メーカーへの注目度は高まります。現時点では炭素繊維や樹脂複合材などがその候補に挙がるのかもしれません。例えば、炭素繊維は既に航空機などに使用されており、その軽さ、丈夫さは折り紙付きです。鉄やアルミと比較してコスト面で見劣りすることや加工の難しさはネックですが、自動車メーカーとの共同開発が進んでいると云ったニュースも少なくありません。新素材が登場した時には、加工成形分野での技術開発も株式市場の注目点になるのではと想像します。

そして、三番目のシナリオです。現在の自動車の熱効率は50%未満ともされており、これを引き上げれば、燃費は急改善することになります。素材による車体の軽量化は今後、費用対効果の低下があるとすれば(実際、新素材ではコストが高くなります)、熱効率改善に費用を投じた方が効率的という局面が来るのでは、という考え方です。その場合、軽量化というテーマは沈静化していくかもしれません。実際、最近は熱効率改善で大幅な燃費向上を実現した例が増えてきています。そう考えれば、軽量化はあくまで燃費向上の手段であり、軽量化そのものが目的ではないことに気づかされます。軽量化は古くて新しいテーマですが、柔軟に本質を見据えて、三番目のシナリオ、あるいはその他のシナリオを見逃してしまうことのないようにしたいところです。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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