第176回 農民工が帰郷し起業? 【北京駐在員事務所から】

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第176回 農民工が帰郷し起業? 【北京駐在員事務所から】

中国では、経済成長の減速で鉄鋼を初めとする重厚長大産業の過剰生産能力が問題視されています。多くが国有企業のため、実質的に経営破綻状態にあるにもかかわらず、政府からの補助金などの優遇政策で生き延びている「ゾンビ企業」も多いとされ、経済構造の改革を妨げていると批判の的になっています。

過剰設備の廃棄等も必要ですが、これらの企業を整理することで職を失う労働者、特に農村部から出稼ぎに来た「農民工」をどのようにして別の職業に誘導するかは重要かつ深刻な問題です。
若年層の中には、スキルを身につけIT産業等に転身する者も出つつありますが、中高年の農民工は、教育水準、職業技能ともに高くないため、サービス業を含め、他の業種、産業で職を得ることは容易でない状況です。

労働者の雇用や生活が不安定になることは、政府への批判の火種にもなりかねませんので、何としても回避したいところです。
そこで、政府は今後5年をかけ、教育訓練、コンサルティングや補助金の支給により、2億7,700万人の農民工に故郷での起業を促し、農村部での就業機会の増加と貧困の撲滅を図る計画を打ち出しました。
起業に際し初期投資の負担が少ない、観光業、伝統工芸品の製造や農産品の製造販売などが有力な業種とされています。

中国では、1978年に決定された改革開放政策以後、農村部から都市部に多くの人々が移住し、建設現場、工場や飲食店などで働き、急速な経済成長の実現に貢献してきました。
しかしながら、成長が鈍化し、輸出とインフラ整備に依存した経済の体質を消費主導型に改革することが求められる中、農民工も岐路に立たされています。
政府の研究機関である中国社会科学院が、農民工を対象に行ったアンケート調査では、回答者の約7割が「故郷に帰りたい」としており、その理由としては年齢、故郷に残した親や子の問題、都市部での就業機会や職業能力の不足、耕作放棄された農地の問題、さらには都市部での生活になじめないことなどが挙げられています。
「農民工が起業」と聞くと、いささか突飛な印象も受けてしまうのですが、「仕事さえあれば帰りたい」と考える人々が多いことから、今回の政府の政策は合理的とも言え、うまく行けば農民工も、また家族も皆が幸福になれるものと期待されます。

中部安徽省の46歳の男性は、上海に隣接する浙江省の電子部品工場で働いていましたが、2012年に帰郷し、元の勤務先から下請けの仕事を得る形で、自身の工場を立ち上げました。
現在は地元に残された女性、高齢者などを積極的に雇用しているそうです。最近では同様に農民工から故郷に戻る人も増えていると話していました。
このような成功例が増え、農村部で良い条件で仕事に就ける人が増加し、生活水準が向上することを願いたく思います。

農民工を巡る状況は、日本で戦後の高度成長期からバブル経済期にかけて、出稼ぎ労働者を巡る環境が激変したことに重なります。中国では戸籍制度の関係で、農民工が都市に定着することが難しいのですが、帰郷する者、都市に留まる者のそれぞれが良い仕事を得て、家族ともども、幸福を得られるよう願わずにはおれません。

「農民工」をキーワードに、中国社会が抱える様々な問題が見えてくるように思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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