第177回 北京の新空港 【北京駐在員事務所から】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第177回 北京の新空港 【北京駐在員事務所から】

北京の空港(首都国際空港)は、航空便の増加で発着枠が限界に達しており、東京の羽田空港と同様の状況になっています。
特に混雑の激しい、朝や夕方の時間帯は、離陸の順番待ちの飛行機が滑走路の手前に列をなし、大幅な遅延が日常的に発生しています。
先日搭乗した便は、着陸便の切れ目が無いために滑走路の手前で一時間近く待たされ、機内では離陸前にもかかわらず、トイレを使う乗客が頻繁に行き来するいささか異様な光景が見られました。

鈍化しているとは言え持続する経済成長を背景に、航空輸送の需要がますます増加すると見られることから、2014年の末に、市南部の大興区で新たな空港の建設が始まりました。2019年中の開業が予定されています。
中国政府で民間航空に関する行政を担当する中国民用航空局はこのほど、新空港の開業後に、大手航空会社4社のうち、中国東方航空、中国南方航空の2社が、発着便を移転させると発表しました。
残る2社のうち、中国国際航空は現在の首都空港を引続き利用するそうで、海南航空については移転あるいは残留についての発表がありませんでした。

中国東方航空、中国南方航空に加え、両社が加入する航空会社連合「スカイチーム」に所属するエールフランス航空、KLMオランダ航空、デルタ航空(米国)、大韓航空などもそろって新空港に移転するそうです。また、移転は4年間をかけて徐々に進められるとのことです。

新空港は北京市の中心部から50㎞ほど南に位置し、現空港に比べ距離的には遠くなりますが、隣接する天津市や河北省からも利用客を集めることが期待され、また発着枠に余裕があることで増便や新路線の開設の余地も大きいことから、専門家は「東方航空、南方航空にとっては大きなチャンス」と述べています。
大手航空会社の間では、国内線についてはある程度住み分けができているのですが、日中間の路線を含め、国際線は激しい競合状態にあります。新空港の開業を契機に、運賃、サービスの両面で競争が一段と激しくなり、利用客にとってメリットとなることが期待されます。
また、近年中国でもLCC(格安航空会社)が台頭しており、大きな空港を2つ持つ上海には多くの便が就航しているのですが、北京では発着枠の制約でLCCが参入できない状況となっています。新空港の開業で北京にもLCCが就航し、利用客の利便性が一段と高まることも期待したいところです。

東京の場合、成田空港開港時の経緯もあり、羽田は国内線中心、成田は国際線中心という形で住み分けを図り、主要航空会社はいずれも両方の空港に就航しています。
北京では、2つの空港の利用航空会社を分けるという政策を取ることになりましたが、これが乗客の利便性を損なうことにならないか、3年後が注目されるところです。

移転する中国東方航空及び中国南方航空に対しては、負担軽減のため、今後発着枠の分配、増便や新路線の開設に関し、優遇政策が取られるものと見られています。
一方、一部の専門家は、「現空港に残る中国国際航空が競争上優位ではないか」と見ています。確かに、現空港は市の中心部から20㎞程度で、電車で30分程で到着できますので、アクセスでは明らかに優位です。各航空会社がこの点をどのようにとらえ、競争に利用していくのかも見ものです。

日本では、2020年の東京オリンピック、パラリンピック大会開催に向けて、羽田、成田の両空港の発着能力への懸念が示されていますが、より長期的には、人口減少により、航空輸送の需要が縮小することが心配されます。
海外からの旅行客をより多く集めることが求められますが、宿泊施設や国内交通機関の容量の問題もあり、そう簡単ではありません。
一方、中国では、海外旅行熱の高まりを背景に、世界各地への新規就航をアピールする航空会社各社の広告が花盛りです。この点でも勢いの差を感じさせられてしまします。

北京の新空港開業で、訪中、訪日旅行客や在留邦人の利便性が向上することを願いたいと思います。

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コラム執筆:長野雅彦 マネックス証券株式会社 北京駐在員事務所長

マネックス証券入社後、引受審査、コンプライアンスなどを担当。2012年9月より北京駐在員事務所勤務。日本証券アナリスト協会検定会員 米国CFA協会認定証券アナリスト

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