第83回 「シェアリングエコノミー」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

マネックスメール編集部企画の特集コラムをお届けします。

第83回 「シェアリングエコノミー」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。釘づけとなっていたリオ五輪も終わり、遂に東京五輪へのカウントダウンが始まりました。筆者は今から楽しみで仕方ありません。一方、暑過ぎた夏もようやく終盤を迎え、これまであまり発生していなかった台風が連日のように日本を襲うようになりました。季節は大きな変わり目に差し掛かってきたようです。皆様も体調を崩す事のないよう、ご留意ください。

さて、今回は「シェアリングエコノミー」をテーマに採り上げたいと思います。このテーマは既に市場でも話題になったことが何度かあり、新しいものではありません。ここでは少し落ち着いて、このテーマを掘り下げてみることにしましょう。そもそもシェアリングエコノミー(共有経済と訳す方もおられます)とは、モノや場所、技術などを共有する事で有効活用しようという試みです。ここでの大きな特徴は、個々人が持つ遊休資産(モノ・場所・技術など)を他者に貸したり、売ったりするCtoC(個人間取引)であることです。貸すケースでは、昨今話題の民泊やライドシェアが典型例であり、売るケースではフリーマーケットなどがその例となるでしょう。似たような例ではレンタカーなどがありますが、これはBtoC(消費者向けビジネス)であり、確かにシェアではあるものの、遊休資産を活用するという観点とは決定的に異なります。これまでは自前で所要すること、そして所有し続けることが基本的な消費行動であり、ステイタスでもありましたが、現在は所有にこだわらず、必要なモノを必要な時に使うという考え方が浸透してきたのだと言えるでしょう。極めて合理的と言えるかもしれません。

これによる影響は幾つか予想されます。好影響としては、なんといっても遊休資産の活用です。従来であれば何ら収益を産まなかったモノ(技術など)が、ビジネスとなるのです。初期投資は基本不要であるため、参入ハードルが高くないことも魅力的です。新規にモノが増えるわけではないので地球環境への貢献に繋がるとも言えるでしょう。また、これはCtoCをテーマに採り上げた時にも触れましたが、ローカルコミュニティの活性化にも波及する可能性があります。供されるのは個々人の遊休資産であるため、それを活用する場もその遊休資産の所在地近辺となるだろうため、です。様々な商品の消費地であった地方が、モノやサービスの供給地となる意味は大きいと考えます。
一方、むしろマイナス影響と思われるのが、消費経済の鈍化です。所有に拘らずにシェアリングで賄えるとすれば、新たなモノ(サービス)を購入する必要はなくなります。単純に考えれば新品は売れなくなってしまうということになりかねません。当然、これは景気には悪影響となるはずです。要はバランスで、前述のプラス影響がこれよりも大きければ、社会全体としてメリットがあると言えるでしょうし、プラス効果がそこまでに至らなければ、経済はむしろ緊縮方向に向かってしまいかねない、ということです。本来、シェアリングエコノミー(共有経済)と従来型の消費経済は別のモノであるはずですが、その均衡に至るまでは共有経済が消費経済を浸食する構造とならざるを得ないのが現実なのです。

しかし、株式投資を考えるうえにおいては、シェアリングエコノミーの拡大でメリット受ける銘柄と浸食される側の銘柄では、現在のところ、おそらく圧倒的にメリット銘柄は少ないと思われます。シェアリングエコノミーが株式市場でいま一つ大きなテーマとなりきれないのはそういった背景があるのだと考えられるでしょう。ただ、所有が重視された時代とは違い、シェアリングエコノミーは今後着実にその領域を広げていくという流れはどうも変わらないように思えます。すると、これまで物色されてきたプラットホーム関連企業やフィンテック関連などのメリット企業群は当然なのですが、共有経済に決して移行されない商品やサービスを提供する企業群も「ディフェンシブ銘柄」として投資対象に上がってくる可能性があると予想します。具体的には、生活必需品や医療関係などが一例として考えられるでしょう。あるいは、こういった時代においても「自前で所有したい」という気持ちをくすぐるエッジの効いた商品を持つ企業が注目を浴びるのではないでしょうか。

それ以上に考えなければならないのは、遊休資産の活用で得られた(あるいは、所有せずシェアにより節約できた)資金です。これらはどこに向かうのでしょうか。モノの所有はシェアで済ませればよいとすれば、やはりシェアされない分野がそのターゲットになるはずです。体験型の旅行やレジャー、あるいはスポーツやカルチャーといった方面は一つの候補と考えます。そして実は、この資金の行き先こそが、シェアリングエコノミーにおける真のメリット銘柄になるのでは、と筆者は期待しています。


コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

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